濡木研公開ラボセミナー

24時間をカウントする時計タンパク質複合体の構造学的な理解に向けて

吉種 光 プロジェクトリーダー(東京都医学総合研究所 体内時計プロジェクト)

2024年03月12日(火)    15:00-16:00  理学部1号館中央棟341号室   

 心拍、体節リズム、概日リズム、季節応答、老化、寿命など、秒単位から年単位まで様々な時間スケールでリズム性をもつ生命現象が存在します。私たちは、このような周期的でリズミックな現象やタイマーのような仕組みに着目し、「時」をカウントするメカニズムの理解を目指しています。例えば、約24時間周期のリズム性を生み出す仕組みとして概日時計が知られています。時計遺伝子の転写フィードバック制御が個々の細胞の中で自律振動するというモデルが提唱され、2017年にはノーベル生理学・医学賞の受賞対象となりました。しかし、このモデルは本当に正しいのでしょうか。例えば、原核生物のシアノバクテリにおいては、3つのKaiタンパク質とATPを混合すると試験管内でもタンパク質のリン酸化や相互作用、構造変化などの概日リズムが観察されます。つまり、転写リズムを必要とせず、タンパク質そのものが時計として機能し、時をカウントしているのです。それでは私たち真核生物はどうでしょうか。60年以上前に、除核した緑藻において(つまり転写がない条件においても)明瞭な光合成リズムが継続することが報告されています。つまり真核生物においても、転写リズムは機能出力として時計の針の役割を担っており、転写を必要としない未知なる時計振動子が概日時計クオーツとして機能している可能性に着目しています。そして、このような理解を進めるためには、時計タンパク質を構造学的により深く理解することが不可欠です。真に「時」を生み出す分子メカニズムの理解を目指している私たちの最新の研究成果をご紹介します。

担当:東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・濡木 理

※学内限定