第1455回生物科学セミナー

レドックスシグナルによる光合成の制御

園池 公毅 教授(早稲田大学 教育・総合科学学術院)

2024年01月31日(水)    16:50-18:35  理学部2号館223号室及びZoom   

 多くの光合成生物において、環境変化に対する生理的応答は、電子伝達鎖の構成要素のレドックス状態によって調節されている。このようなレドックス制御としては、プラストキノン(PQ)プールのレドックス状態によって光化学系I(PSI)と光化学系II(PSII)の間のエネルギー分配の制御システムであるステート遷移が制御されている例が挙げられる。シアノバクテリアのステート遷移は、アンテナ複合体として働くフィコビリソームの物理的な移動によって誘導される。一方で、シアノバクテリアにおいては、PSI還元側のレドックスシグナルも様々な制御に重要な働きをしていることが示されている。本研究では、ステート遷移の制御機構にかかわる新たな因子を明らかにするために系統プロファイリング解析を行った。具体的には、フィコビリソームを持たない典型的な8種の全てに存在しないが、フィコビリソームを持つ典型的な107種のほとんどには存在する遺伝子を探索した。こうして同定された遺伝子のほとんどはフィコビリソームの構成要素をコードしていたが、いくつかの遺伝子は機能が不明であった。我々は、それらの遺伝子の一つであるslr0244の変異体を分光学的に解析した。slr0244変異体は正常なステート遷移を示さなかった一方、PQプールのレドックス状態は正常に酸化還元していた。したがって、slr0244は、PQプールのレドックス状態を感知する段階もしくはその下流において、ステート遷移を制御していると思われる。これらの知見を、これまでに報告されているslr0244遺伝子産物の生化学的特徴と考え合わせると、slr0244は、おそらくキナーゼ活性を介して、PQプールのレドックシグナルをPSI還元側のレドックスシグナルと統合する新規なステート遷移制御遺伝子であることを示唆している。また、今回の結果は、これまでアノテーションされていない遺伝子の機能を予測する上での系統プロファイリング解析の有効も示している。
参考文献
Ogawa, T., Suzuki, K. and Sonoike, K. (2021) Respiration interacts with photosynthesis through the acceptor side of photosystem I, reflected in the dark-to-light induction kinetics of chlorophyll fluorescence in the cyanobacterium Synechocystis sp. PCC 6803. Frontiers in Plant Science, 12, 717968.

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・植物生理学研究室