第1453回生物科学セミナー

分野融合研究のための単細胞紅藻研究系の開発

宮城島 進也 教授(国立遺伝学研究所)

2024年01月19日(金)    10:25-12:10  理学部2号館223号室及びZoom   

単細胞性の藻類は真核生物の多くの系統に散在し、比較的ゲノムサイズが小さく細胞構造も単純な種も多く存在する。さらに実験室において比較的均一な環境下で均一な細胞集団を得ることが可能である。従って、単細胞藻類は、生態学、進化学、細胞生物学、植物生理学、合成生物学などの多様な分野の、またこれらの融合研究の対象として優れたポテンシャルを有している。しかしながら遺伝的改変技術の開発が遅れていること、遺伝的改変が行える種(培養株)であっても自然環境から切り離されてから久しく、正確な生活環が不明である場合が多く、またもともと生息していた環境も今となっては不明な場合も多いという問題がある。
 我々は単細胞紅藻シゾン(Cyanidioschyzon merolae)において遺伝的改変法を含め種々の研究手法を開発してきた経験を生かし、国内の硫酸酸性温泉より新たに単離したイデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)の様々な系統群において遺伝的改変技術を開発し、生息環境にアクセス可能なモデル研究系を立ち上げた。さらにこれまでに単細胞紅藻類、つまり光合成真核生物で最も初期に分岐した生物群では見つかっていなかった有性生殖過程も発見した。イデユコゴメ綱に属する藻類はゲノムサイズが極めて小さく(8–17 Mbp)細胞内構成も単純であるため、光合成真核生物に備わっている基本的な機構の解明を促進すると期待される。本講演では、イデユコゴメ類の有性生殖過程、開発した様々な研究系を紹介するとともに、イデユコゴメ類を用いた研究の今後の展望について紹介する。
参考文献
1.Hirooka, S., Itabashi, T., Ichinose, T.M., Onuma, R., Fujiwara, T., Yamashita, S., Jong, L.W., Tomita, R., Iwane, A.H., and Miyagishima, S. (2022) Life cycle and functional genomics of the unicellular red alga Galdieria for elucidating algal and plant evolution and industrial use. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 119, e2210665119.
2.Miyagishima, S. and Tanaka, K. (2021). The uinicellular red alga Cyanidioschyzon merolae-the simplest model of a photosynthetic eukaryote. Plant Cell Physiol. 62, 926-941.

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・遺伝学研究室