第1481回生物科学セミナー

トランスポゾンを排除する大規模ゲノム再編機構

片岡研介 助教(基礎生物学研究所・クロマチン制御研究部門)

2023年12月15日(金)    14:00-15:00  理学部2号館201号室   

生物のゲノムにはトランスポゾンなどの転移能を持つ外来性のDNA配列が潜んでいる。これらの転移や増幅は、生物の多様性を生むが、同時にホストの生存にとっては重大な脅威となる。多くの真核生物は、小分子RNAの相補性を利用してホストゲノムに入り込んだトランスポゾンを見つけ出し、クロマチンが高次に凝縮したヘテロクロマチン構造に閉じ込めることで、その活動を抑制している。一方、一つの細胞内に小核と大核の二種類の核を有する繊毛虫類は、ヘテロクロマチンを利用したトランスポゾンの抑制システムをさらに発展させ、有性生殖の過程で、トランスポゾン由来のエンドヌクレアーゼを用いて、トランスポゾンDNAをゲノムから完全に取り除くという、他に類を見ない大規模ゲノム再編のシステムを進化させてきた。本セミナーでは、繊毛虫類の一種であるテトラヒメナのトランスポゾン排除の巧妙なしくみを概説するとともに、我々の最近の研究で明らかになってきた、複数のHP1様タンパク質の協調的な作用について紹介する。これらを通じて、クロマチンの動態制御を介したトランスポゾン抑制の頑強性や柔軟性の理解を深めるとともに、核の二型性とともに辿った繊毛虫類の進化について議論したい。


担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・遺伝学研究室