第1448回生物科学セミナー

遺伝子から紐解く日本列島の生物多様性

東城幸治 教授(信州大学理学部生物科学科)

2023年11月08日(水)    16:50-18:35  理学部2号館223号室及びZoom   

 日本列島は,かつてユーラシア大陸の東端に位置しており,2,000万年前から1,500万年前に大陸から離裂するようにして形成された島嶼とされる.この離裂には,海洋プレート(太平洋プレートとフィリピン海プレート)が比重の軽い大陸プレート(ユーラシアプレートと北米プレート)の下へと潜り込むプレート活動に起因するとされる.約1,500万年前には,現在の日本列島の原型ができ上がったとされるものの,約500万年前までの長期にわたり,東西日本は深い海峡で分離された状態がつづいたと考えられている.この海峡は,ラテン語で「深い溝」の意をもつ「フォッサマグナ」と称されるが,海底の堆積物や火山噴出物により埋められて現在のような陸続きの本州が形成されたとされる.また,日本列島形成以降,現在に至るまで,活発な地殻変動が継続しており,今なお活発な火山が列島内を縦断しており,活発な造山活動が今なお生じている.
 こうした複雑な日本列島の形成史は,本邦に生息する生物の系統進化史にも深く関係している.とくに,移動分散力が弱い生物種群においては,現在の地域集団の遺伝構造に,地史の影響が垣間見ることができるものも多い.特に,河川に生息する生物種群は,河川に沿った移動分散という強い制約を受けることから,河川系(水系)という「線」的ネットワーク内での遺伝子流動に限定される.また,水系として接続してはいても,源流域と河口域では環境が大きく異なるため,これらのネットワーク内を自在に移動することは困難である.
 本セミナーでは,具体的な生物種群の遺伝構造解析(系統解析)を紹介しながら,日本列島形成史や山岳形成などの地史との関連性について議論したい.
参考文献
Tojo K*, Sekine K, Takenaka M, Isaka Y, Komaki S, Suzuki T and Schoville SD. (2017) Species diversity of insects in Japan: Their origins and diversification processes. Entomological Science 20: 357–381(Invited Review)
昆虫DNA研究会(編)(2015)遺伝子から解き明かす昆虫の不思議な世界 –地球上で最も繁栄する生き物の起源から進化の5億年. 悠書館.

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・進化系統学研究室