第1447回生物科学セミナー

個葉・個体・群落スケールで評価するC3・C4作物の物質生産・水利用特性

杉浦大輔 講師(名古屋大学大学院生命農学研究科)

2023年11月01日(水)    16:50-18:35  理学部2号館223号室及びZoom   

主要作物の物質生産・水利用特性の環境応答を個葉、個体、群落スケールで理解することは、気候変動が食糧生産に与える影響の予測や、新品種育成のためにも重要な課題である。これまでの研究から、イネ科の主要C4作物 (トウモロコシやソルガムなど) はC3作物 (コムギやオオムギなど) より気孔の開閉速度が非常に速く、この特性がC4作物の高い水利用効率に寄与していることが明らかになった (Ozeki et al. 2022)。一方で、既存のハイエンドな個葉・個体レベルの気孔応答・水利用特性の評価システムでは、多数の植物を同時に測定できず、一定の乾燥条件を維持することが難しいという問題点があった。発表者はこの問題点を解決するため、マイクロコントローラーを用いた、ローコスト・ハイスループットな植物の水利用特性の新規計測システムの開発に取り組んでいる。本発表では、これらのシステムを用いた、イネ、ダイズ、トウモロコシにおける作物のストレス耐性評価、節水型品種選抜に向けた研究について紹介する。また、圃場において作物の群落レベルの物質生産を評価するのは非常に労力がかかる作業である。発表者は、光学センサーを用いてイネの群落葉面積を連続・非破壊的に計測する手法を開発した (Fukuda et al. 2021)。本発表では、本手法を用いた多収イネ品種における収量決定要因の解明に向けた研究についても紹介する。

参考文献
Ozeki K, Miyazawa Y, Sugiura D. (2022)
Rapid stomatal closure contributes to higher water use efficiency in major C4 compared to C3 Poaceae crops. Plant Physiology 189 (1): 188-203.

Ozawa Y, Tanaka A, Suzuki T, Sugiura D. (2023)
Sink-source imbalance triggers delayed photosynthetic induction: Transcriptomic and physiological evidence. Physiologia Plantarum, in press.

Fukuda S, Koba K, …, Sugiura D. (2021)
Novel technique for non-destructive LAI estimation by continuous measurement of NIR and PAR in rice canopy. Field Crops Research 263: 108070.

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・附属植物園