第1449回生物科学セミナー

植物ホルモン、ストリゴラクトン信号伝達の起源と段階的進化

経塚淳子 教授(東北大学大学院生命科学研究科)

2023年11月29日(水)    16:50-18:35  理学部2号館223号室及びZoom   

 ストリゴラクトンはラクトン環をもつ低分子化合物である。植物の成長を調節する植物ホルモンであり、また、根から分泌されarbuscular mycorrhizal (AM菌)との共生を促進する根圏シグナル物質でもある。AM菌との共生は植物にとって重要であり、植物の陸上進出以前に始まり、現生する植物の8割以上で共生が見られる。一方、ストリゴラクトン受容体は種子植物にのみ存在する。私たちは、ストリゴラクトンがAM菌との共生の促進がストリゴラクトンの祖先的機能であり、受容体が誕生したことにより植物ホルモンとしての機能が開始したことを実験的に示した(1)。
 ストリゴラクトン受容体はKAI2遺伝子の遺伝子重複により誕生した。KAI2信号伝達系は、コケ植物が分岐する前に完成した。ゼニゴケやヒメツリガネゴケは、KAI2信号伝達系のオン/オフを調整することにより栄養繁殖を調整していることを見出した(2,3)。また、いずれの場合もサイトカイニンとのクロストークが重要であることが明らかになった(未発表)。さらに、シダ植物や裸子植物におけるKAI2信号伝達系の機能解析を進めており、被子植物では、ストリゴラクトン信号伝達系を獲得したことによりKAI2信号伝達系との間で役割分担が起こった可能性があると考えている。

参考文献
1.Komatsu et al, (2023) Control of vegetative reproduction in Marchantia polymorpha by the KAI2-ligand signaling pathway. Current biology. 33: 1196-1210.
2.Kodama et al, (2021) An Ancestral Function of Strigolactones as Symbiotic Rhizosphere Signals. Nat Commun. 13:3974.
3.Mizuno et al, (2021) Major components of the KARRIKIN INSENSITIVE2-dependent signaling pathway are conserved in the liverwort Marchantia polymorpha. The Plant Cell. 33:2395-2411.

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・発生細胞生物学研究室