第1452回生物科学セミナー

昆虫が超高速度運動を生み出すカラクリ

青沼仁志 教授(神戸大学大学院理学研究科)

2023年09月12日(火)    16:50-18:35  理学部2号館223号室及びZoom   

捕食者が獲物を捕獲する行動や,被食者がその脅威から逃れる行動は速い.速度は,動物の生存にとって重要である.日本には,"trap-jaw"と呼ばれる長く強力な大顎をもつオキナワアギトアリ Odontomachus kuroiwae が生息する.このアリは,大顎を2.3×104rad/sもの超高速度で閉じて獲物を捕獲する.また,このアリは,大顎の先端を超高速度で地面や物にぶつけて,その反動で自分の身体を弾き飛ばしてジャンプする.シンクロトロンやX線マイクロCTを用いることで、昆虫のような小さな身体の動物が,筋収縮をはるかに上回る超高速度の運動を生み出す機構が明らかになりつつある.シンクロトロンを使った」X線ライブイメージングでは,アリが大顎を動かす時の筋の状態や,筋収縮に伴う腱や骨格の状態が観察できる.また,X線マイクロCTを使ったイメージングでは、アリの頭部や関節などの詳細な3次元構造について非破壊の状態で観察することができる.セミナーでは,X線を使ったマイクロイメージングから,オキナワアギトアリの超高速度運動を生み出すからくりが,大顎関節のラッチ機構と内転筋の収縮による骨格や腱の弾性変形に蓄積したエネルギーを解放する機構にあることを紹介する.
参考文献
Aonuma et al. (2023) Embodied latch mechanism of the mandible to power at ultra-high speed in the trap-jaw ant Odontomachus kuroiwae. J. Exp. Biol. 226. jeb245396
Aonuma (2020) Serotonergic control in initiating defensive responses to unexpected tactile stimuli in the trap-jaw ant Odontomachus kuroiwae. J. Exp. Biol. 223(19): jeb228874

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・附属臨海実験所