濡木研公開ラボセミナー

薬剤ターゲットの単離・同定 -サリドマイドのターゲットCereblonの発見から新たな抗がん剤開発への発展-

半田 宏(東京医科大学 医学総合研究所 未来医療研究センター 分子薬理学研究部門 兼任教授/東京工業大学 名誉教授)

2023年08月02日(水)    16:30-17:30  理学部1号館東棟285号室(NSSOL Learning Studio)   

RNAポリメラーゼⅡの転写伸長阻害剤DRBの作用機構を解明した経験から、低分子化合物のターゲットを単離・同定し、ターゲットが関わる生体反応の複雑な制御機構を理解するtarget-based chemical biologyに興味を持ちました。そこで、アフィニティ-ビーズ技術を独自に開発し、それを用いて低分子化合物のターゲットを単離・同定し、化合物の作用機構の理解に努めてきました。その一環としてサリドマイドを選びました。サリドマイドは催眠鎮痛剤として1950年代後半に上市されましたが、催奇性が発覚し、市場から完全に撤退しました。それにも拘わらず、ハンセン病や多発性骨髄腫など難治疾患の治療薬として再び市場に舞い戻った稀有な薬剤です。我々は、サリドマイドの標的として、Cereblon(CRBN)を単離・同定し、CRBNがE3ユビキチンリガーゼの基質受容体で、サリドマイドはその酵素活性を標的とすることを明らかにしました。次に、CRBNはサリドマイドの抗がん作用にも関わり、その抗がん作用の分子機構と構造的基盤を明らかにしました。その後、いくつかのサリドマイド誘導体の作用機構や複合体構造を解明しました。それら基礎研究の成果は、Molecular gluesやPROTACs/Degradersと呼ばれる標的タンパク質分解剤(TPDs)に開発に多大な貢献を果たしています。本セミナーでは、以上の成果を紹介すると共に最新の知見をいくつか紹介します。

※学内限定