人類学演習・談話会

足の機能形態学 ―足部から考える直立二足歩行進化―

伊藤 幸太 先生(産業技術総合研究所 人工知能研究センター)

2023年06月30日(金)    16:50-18:35  理学部2号館201号室   

常習的な直立二足歩行の獲得は、ヒトと他の霊長類を分かつ大きな特徴の一つであり、その進化過程の解明は長きにわたって自然人類学における関心事となっている。ヒトの身体構造は、様々な点で直立二足歩行に適応的にデザインされていることが知られているが、足部構造も例外ではない。ヒトの足部を他の霊長類と比べてみると、対向性を失った母趾やアーチ状に組み合わさった骨格構造、拡大された踵の骨といった特徴が見られ、この一つ一つが安定かつ効率的な二足歩行生成に寄与していると考えられている。このような現生霊長類との比較から得られる知見に基づいて、化石人類の当時の運動様式を足部の化石形態からある程度推察することも可能である。例えば、およそ440万年前の化石人類であるラミダス猿人は、骨盤の形態が部分的に現生のヒトに似た構造であった一方で、足部は依然として母趾対向性を有した把握性に富んだ構造であった。そのため、直立二足歩行能力をある程度有しながらも、常習的に樹上環境を利用していたと考えられている。これが360万年前ごろのアファール猿人になると、母趾はほぼ前方を向き、踵骨の結節部もそれなりに大きかったことがわかっている。以上のことから、人類進化とともに生じた足部の構造改変が、直立二足歩行の獲得と密接に関連していることは明らかである。しかしながら、これらの形態的特徴が持つ直立二足歩行に対する機能的意義については、その構造の複雑さゆえに未解明の部分も多い。本発表では、ヒトの足部に内在する直立二足歩行生成のための形態的基盤と、その進化過程の解明について、これまで演者が行ってきた研究事例を最新の研究動向を交えながら紹介する。
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<今後の予定> 
7月  7日 中込 滋樹 先生(太田研担当)
   14日 井原 泰雄 先生
   21日 五月女 康作 先生(大橋研担当) ※Sセメ最終回