人類学演習・談話会

歯の人類学:事例からの紹介

森田 航 先生(国立科学博物館 人類研究部)

2023年04月28日(金)    16:50-18:35  理学部2号館201号室   

歯は非常に硬質で堆積層中においても保存されやすいため化石や古人骨資料も多い。動物の健康状態や食性、さらに系統関係復元の指標として用いられ、人類学研究において重要な位置を占めている。本発表では、演者がこれまでに行ってきた3つの歯の人類学についての研究事例を紹介する。1つ目が古病理学的な分析である。中米マヤ地域と、南米アンデス地域において、それぞれ時代間比較を行い、齲蝕、生前脱落歯数、エナメル質減形成といった指標がどのように変動するのかを検討した。これらから当時の食性やトウモロコシ農耕の広がりといった生業との関連を考察する。2つ目が系統関係の推定である。中新世の化石類人猿を材料に、ケニア共和国ナカリにおける発掘調査の様子を紹介すると共に、ナカリピテクスと、その同時代にユーラシア大陸に生息したウーラノピテクスの系統関係について3次元形態解析を用いた推定結果を示す。さらに現生アフリカ類人猿の起源についても議論する。3つ目が歯の進化発生学的研究である。歯の数や形態は、哺乳類や人類の進化過程で様々に変化してきたが、それを引き起こす発生過程での変化は化石資料だけからはわからない。そこで演者らは真無盲腸目の実験動物であるスンクスを用いて歯の表現型とゲノムとの関連解析を進めている。4つの歯種(切歯・犬歯・小臼歯・大臼歯)すべてを持つスンクスは、歯の形質の変異も大きい。今回は歯数の減少に着目した解析を紹介し、歯式の進化についても議論する。

-------------------------------------
<今後の予定>
5月  5日 祝日
   12日 五月祭準備のため休講
   19日 米田 穣 先生(近藤)
   26日 河野 礼子 先生(荻原)