第1443回生物科学セミナー

ミニ生態系としての地衣類ーDNAで見えてきた住人たちの関わり合い-

大村 嘉人 グループ長(国立科学博物館 植物研究部 菌類・藻類研究グループ)

2023年07月12日(水)    16:50-18:35  理学部2号館223号室及びZoom   

「地衣類」というと皆さんはどのようなイメージを持っていますか?コケ植物?いえいえ、違います。菌類と藻類の共生体?そうですね、概ねそのようなイメージで良いと思います。地衣類とは、「藻類と共生し地衣体と呼ばれる特殊な構造体を作る菌類の総称」と定義することができます。地衣類では、菌類がいわば「住み処」である地衣体全体を作り、中にいる藻類を乾燥や紫外線から守っています。そして、藻類は光合成を行い、菌類に栄養を与えます。このように持ちつ持たれつの「共生」関係であるものの、基本的には地衣類というのは、菌類が栄養を得るための一つの「生き様」であると言えます。菌類が畑を作ってそこで藻類を栽培しているのように考えると、菌と藻の関係を理解しやすいかもしれません。藻類側もその畑で育つことに特化して、よそで育つのが難しくなってしまったものもあるということです。
地衣類では、菌類と藻類の他にシアノバクテリアも構成メンバーになることがあります。そして、地衣類の上を成育場所とする地衣生菌や微細藻類がいたり、地衣類を住み処にしてそれをエサにもする小動物が住んでいたりと、地衣類はまさに「ミニ生態系」ということもできるでしょう。DNA解析の進歩により、さらなる第三,第四の住人である他の菌類やバクテリアの存在や、それらがこのミニ生態系の維持に欠かせない役割を果たしていることなどが分かってきました。また、地衣類の基本構成である菌類と藻類は原則として組み合わせは決まっていると考えられてきましたが、環境に応じて変わりうることも示されてきています。本セミナーでは、ミニ生態系として地衣類を構成する生物の関わり合いについて演者の研究や最近の研究動向などを交えて紹介したいと思います。
参考文献
Grube, M. et al. 2015. ISME J. 9: 412-424
Nash III, T. H. 2008. Lichen Biology 2nd ed. Cambridge University Press.
Ohmura, Y. et al. 2006. Bryologist 109: 43-59.
Spribille, T. et al. 2016. Science 353: 488-492.
大村嘉人.2016.街なかの地衣類ハンドブック.文一総合出版.

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・植物生態学研究室