第1425回生物科学セミナー

植物の交配様式の進化生態学:自家受精と自家不和合性の進化を例に

土松 隆志 准教授(東京大学大学院理学系研究科)

2022年11月08日(火)    10:00-11:30  Zoomによるweb講義   

被子植物には、自家受精(自殖)を行う種が多く知られている。自殖は、近交弱勢により適応度の低い種子ができるデメリットはあるものの、周りに交配相手やポリネーターがいない環境でも確実に種子生産できるなどの利点から、被子植物において何度も繰り返し進化してきたと考えられている。自殖性・他殖性の違いは、植物の他のさまざまな生殖形質、分布域、生物間相互作用、ひいては集団の存続可能性や種の絶滅率にまで影響をもたらすことが知られており、植物の多様な形質の進化や環境適応の理解の鍵を握るものである。本講演ではまず、自家不和合性の不活化に伴う他殖性から自殖性への進化がどのような遺伝的変革により生じたのかについて、モデル植物シロイヌナズナおよび近縁種を用いた研究例を概観する。続いて、自殖性植物でしばしばみられる、花弁の退縮や花粉数の減少などの生殖関連形質群「自殖シンドローム」の進化の遺伝的基盤を複数の植物群で比較した研究を紹介する。最後に、他殖性を維持する機構として重要な自家不和合性の中でも、とくに非自己認識型と呼ばれるシステムに着目し、ナス科ペチュニア属植物の多数の野生個体の網羅的ジェノタイピングに基づき進化動態を解明する試みについて話題提供する。一連の研究を通して見えてくる、自殖性や自家不和合性における種を超えた共通性を踏まえ、交配様式の生態・進化研究の今後の展望を議論する。

参考文献
1. Tsuchimatsu, T., and Fujii, S. (2022) Phil Trans R Soc B. 377: 20200510.
2. Tateyama, H., Chimura, K., and Tsuchimatsu, T. (2021) J Evol Biol 43: 1981.
3. Tsuchimatsu, T., et al. (2020) Nature Commun 11: 2885.

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・発生細胞生物学研究室