第1426回生物科学セミナー

植物と微生物の相互作用を知り制御する

晝間敬 准教授(東京大学総合文化研究科)

2022年11月24日(木)    10:00-12:00  Zoomによるweb講義   

植物の周囲には、植物成長を助ける共生菌や逆に阻害する病原菌など多彩な微生物が存在している。その中には、環境条件や宿主の遺伝背景に依存する形で、感染戦略を共生型から病原型と連続的かつ可塑的に変化させる微生物も存在する。このことから、これらの微生物の感染戦略やその連続性を支えるメカニズムを植物・微生物双方の観点から理解することは、微生物の潜在的な病原性の発現を抑えつつ植物に対する共生効果を最適化させ、制御していく上で必要と考えている。
    私は先述の試みの第一歩として、これまで炭疽病菌として知られていたColletotrichum属糸状菌の中から、リンが欠乏した環境においてシロイヌナズナの根に共棲しリンを供給することで植物成長を促す共生菌Colletotrichum tofieldiaeを発見した (Hiruma et al., Cell 2016)。続いて、共生型のC. tofieldiaeはリン欠乏条件だけでなく窒素欠乏条件でも植物成長を促すこと、野外圃場でも植物成長を促すこと、さらには、C. tofieldiaeは根圏に特定の種類の細菌を誘引して、その細菌と協調的に植物成長を促すことなど、異なる条件下で多彩な共生効果を発揮することを見いだしている。
一方で、C. tofieldiaeの菌株の中に、環境や宿主の遺伝背景に応じて病原型から共生型へとその感染戦略を変化させる株が存在することを見出した。続いて、その菌株の共生型から病原型への連続的な感染戦略の移行には、病原型における単一の糸状菌二次代謝物クラスター遺伝子の活性化が鍵であることがわかった。さらに、この二次代謝物クラスターの活性化に伴い、植物ホルモンであるアブシジン酸経路が植物の根で活性化されること、ひいては宿主植物の栄養状態が撹乱され、植物成長が阻害されることが明らかとなった (Hiruma et al., bioRxiv 2022)。以上から、糸状菌の二次代謝物クラスターは環境の変動に応じて、植物感染糸状菌が共生から病原と連続的な感染戦略を示すための根幹となっていることが考えられた。
参考文献
1. Hiruma K et al. (2016). Root Endophyte Colletotrichum tofieldiae confers plant
fitness benefits that are phosphate status dependent. Cell 165, 464-474.
2. Hiruma K, et al. (2022). A fungal secondary metabolism gene cluster enables
mutualist-pathogen transition in root endophyte Colletotrichum tofieldiae.
bioRxiv. doi: https://doi.org/10.1101/2022.07.07.499222.

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・発生進化研究室