第1423回生物科学セミナー

細胞核内のDNA空間配置メカニズム

松永幸大 教授(東京大学大学院新領域創成科学研究科)

2022年10月25日(火)    17:05-18:35  Zoomによるweb講義   

染色体に由来するDNAは3次元的にパッケージングされ、細胞核内で決まった空間配置を取ります。細胞が分裂する時に、DNAは凝縮して染色体となり、動原体によって両極に引っ張られます。その動原体に牽引されるDNA領域がセントロメアです。細胞分裂後に再び再構築された細胞核は、細胞分裂の時にセントロメアが引っ張られた状態のまま空間配置を維持することがあります。このように、セントロメアが細胞核内に偏ったまま配置される構造のことをRabl構造と呼びます。一方、セントロメアの偏った配置が解消されて、細胞核内に分散する構造をnon-Rabl構造と呼びます。しかし、Rabl構造はすべての生物に見られるわけではなく、non-Rabl構造を作る分子メカニズムの詳細は不明なままでした。
セントロメア配置を調べている時、non-Rabl型のシロイヌナズナのコンデンシンII(CII)変異体はRabl構造を取ることがわかりました。さらに、核膜を貫いて存在している細胞核・細胞骨格連結複合体(LINC)のタンパク質が欠損した変異体も、同様にRabl構造を示すことがわかりました。更に解析した結果、CIIとLINCは細胞核内で複合体を形成し、non-Rabl構造を作成するために働くことがわかり、その複合体をCII-LINC複合体と命名しました。また、私達が同定した核膜の裏打ちタンパク質(核ラミナ)・CRWNの変異体では、セントロメアの動きが活発化していることが観察され、CRWNはセントロメアの空間配置を固定化する役割を果たしていることがわかりました。これらの結果から、細胞分裂後にセントロメアが分散型のnon-Rabl構造のような空間配置を取るためには、(1)細胞分裂後期に両極に偏って分布しているセントロメアが、CII-LINCにより細胞核内に分散する(2)細胞核が形成された後に、CRWNによって分散配置が安定化するという二つのステップが存在することがわかりました。このセミナーでは、植物の核ラミナCRWNの同定から、セントロメアの核内空間配置メカニズムの解明に至った研究成果を紹介し、今後の核内動態メカニズムの研究の方向性を議論したいと思います。

参考文献
Sakamoto, T., Sakamoto, Y., Grob, S., Slane, D., Yamashita, T., Ito, N., Oko, Y., Sugiyama, T., Higaki, T., Hasezawa, S., Tanaka, M., Matsui, A., Seki, M., Suzuki, T., Grossniklaus, U. and Matsunaga, S. (2022) Two-step regulation of centromere distribution by condensin II and the nuclear envelope proteins. Nature Plants, 8, 940-953 (14 pages).
Sakamoto, Y., Sato, M., Sato, Y., Harada, A., Suzuki, T., Goto, C., Tamura, K., Toyooka, K., Kimura, H., Ohkawa, Y., Hara-Nishimura, I., Takagi, S. and Matsunaga, S. (2020) Subnuclear gene positioning through lamina association affects copper tolerance. Nature Commun., 11, 5914 (12 pages).

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・東山研究室