第1421回生物科学セミナー

運動学習・運動制御の脳回路ダイナミクス

松崎 政紀 教授(東京大学大学院医学系研究科)

2022年09月28日(水)    13:30-15:00  Zoomによるweb講義   

ヒトを含め多くの動物は、生得的に備わった歩行などの運動に加えて、新しい運動を学習し正確に実行することで、不確定な環境変化に適応することができる。これを実現するために、哺乳類では、一次運動野だけではなく、他の大脳皮質、大脳基底核、小脳など脳全体の神経回路の活動がダイナミックに変化する。従ってこのメカニズムを理解するためには、一つの脳領域での神経細胞活動を計測して解析するだけでなく、領域間を伝達する信号を計測し、操作することも必須である。私たちは、マウスを用いて前肢レバー運動課題を構築し、運動学習に伴う細胞活動を、大脳皮質の層ごと、細胞種ごと、また大脳基底核や小脳からの信号を受ける視床から運動野へ投射する軸索において、神経活動を高解像度イメージングし、得られた多細胞活動を解析することで、運動学習・運動実行における脳内情報の生成と変換を明らかにしてきた。また、小型霊長類でのマーモセットを用いた大脳皮質回路についても研究を展開して、マウスとの比較を試みている。本セミナーでは、私たちの最近の研究成果についてご紹介したい。

参考文献
1.Terada et al. Transition of distinct context-dependent ensembles from secondary to primary motor cortex in skilled motor performance. Cell Reports, in press.
2.Ebina et al. Two-photon imaging of neuronal activity in motor cortex of marmosets during upper-limb movement tasks. Nat. Commun. 9, 1879, 2018.
3.Tanaka et al. Thalamocortical axonal activity in motor cortex exhibits layer-specific dynamics during motor learning. Neuron 100, 244-258, 2018.
4.Masamizu et al. Two distinct layer-specific dynamics of cortical ensembles during learning of a motor task. Nat. Neurosci. 17, 987-994, 2014.

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・飯野研究室