第1403回生物科学セミナー

植物の太陽紫外線適応戦略機構

日出間 純 准教授(東北大学大学院生命科学研究科)

2022年11月09日(水)    17:05-18:35  Zoomによるweb講義   

太陽光を利用して生きる植物は、常に有害紫外線UVB(280-315 nm)による障害を受けるため、UVBによる障害の修復・防御機構の保持は必須である。これまでに我々は、高等植物におけるUVB 抵抗性とUVB 適応戦略機構に関する一連の解析を進め、植物におけるUVB抵抗性には、UVB によって誘発されるDNA 損傷の1 つである、シクロブタン型ピリミジン二量体:cyclobutane pyrimidine dimer (CPD)を修復するCPD光回復酵素(PHR)の修復機能に加え、UVBによって障害を受けたオルガネラを除去するオートファジー機能が重要な役割を演じていることを報告した(1-2)。本セミナーでは、これまでの研究結果を基に、植物の太陽紫外線適応戦略機構に関して紹介し、議論する。
(1) アフリカ、東南アジアで栽培されているイネ品種は、高いUVB感受性を示す
世界各地で栽培されているイネ品種のUVB感受性は大きく異なる。紫外線量が相対的に高い、アフリカ地域、東南アジアで栽培されるイネ品種、O, glaberrima, O. barthii、またO. sativa indicaなどは、著しいUVB感受性を示す(3)。なぜ、紫外線量が高い地域では、UVB超感受性イネが栽培され続けられているのか?この要因を探っていくと、様々な環境ストレス応答間でのtrade-offの関係の存在が見えてきた(4)。
(2) CPD光回復酵素の細胞内局在性の違いから見えてきた新たな紫外線適応戦略機構
PHR は、有胎哺乳類を除く全ての生物が有しており、原核生物から真核生物へと進化し細胞内にミトコンドリアを有すると、核とミトコンドリアへ移行するdual targeting 機能を獲得した。一方、葉緑体オルガネラを有する植物のPHR細胞内局在を解析すると、核に1コピーでコードされたイネPHR遺伝子は発現後、核、ミトコンドリア、葉緑体に移行して機能する“triple targeting protein”であること、②ミトコンドリアへの移行は、植物においてのみ特有に保存されたC末端領域に存在するシグナル配列を利用していること、③葉緑体移行シグナル配列は、N末端領域に存在することなどを見出した(5)。しかしながら、イネPHRで見出された葉緑体移行シグナル配列は、一部の植物種において保存されているものの、多くの植物種では保存されてなく、葉緑体移行性を示さない。「葉緑体DNAの修復機構を持たない植物は、太陽紫外線による葉緑体障害に対して、どのような対処をしているのか?」これまでの研究結果を基に、新たな紫外線適応戦略機構の可能性に関して議論する。

参考文献
(1) Hidema et al. 2000, Plant Cell, 12: 1569-1578.
(2) Izumi et al. 2017, Plant Cell, 29: 377-394.
(3) Mmbando GS et al. 2020, Sci Rep. 10(1):3158.
(4) Mmbando GS, and Hidema J. 2021, Turkish Journal of Botany, 45: 601-612.
(5) Takahashi et al. 2014, Plant J. 79: 951-963

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・生体制御研究室