第1409回生物科学セミナー

幹細胞の分化誘導系から理解する個体発生システム

永樂元次 教授(京都大学医生物学研究所)

2022年09月27日(火)    17:05-18:35  Zoomによるweb講義   

臓器の発生過程は、細胞の分化や移動といった様々な細胞レベルのイベントが同時に起こる極めて複雑な現象である。また組織レベルでも各領域が分泌因子などを介して相互の発生プロセスに影響を及ぼし合う。このようなダイナミックな臓器発生の全体像を理解しようとする試みにおいては、それぞれの生命現象を切り分けてより単純な実験系を提供するin vitroでの組織形成モデルは強力な研究ツールとなる。またヒト多能性幹細胞を用いることによってヒト器官形成過程の研究へもアプローチすることが可能になってきた。我々は、これまでにマウスおよびヒト多能性幹細胞を用いて、大脳新皮質や網膜組織を3次元オルガノイドとして分化誘導することに成功してきた(Eiraku et al.,2008, Eiraku et al., 2011)。
多能性幹細胞はその分化能を維持した状態で無限に自己増殖可能な幹細胞である。現在よく使われる多能性幹細胞としては胚性幹細胞(embryonic stem cell: ES細胞)と誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell: iPS細胞)がある。ES細胞やiPS細胞は全ての種類の体細胞と生殖細胞に分化する能力(多能性)を有しており、様々な細胞を産生する供給源として再生医療などの領域で期待されている。近年、多能性幹細胞から脳や肝臓、腸管オルガノイド形成技術が開発され、再生医療だけでなく、疾患モデル研究や創薬プラットフォームの分野でも注目され、年々その技術を応用した報告が増えている。
 本講義では、発生システムに備わった自己組織化的な臓器形成のメカニズムを解説し、それらがどのようにオルガノイド培養に現れてくるのかについて最新の知見を交えながら解説する。また、今後の応用可能性についても議論する。


担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・動物発生学研究室