第1399回生物科学セミナー

巻貝の逆巻種―正常発生する内臓逆位の系統進化

浅見崇比呂 特任教授(信州大学)

2022年06月22日(水)    17:05-18:35  Zoomによるweb講義   

螺旋卵割は、前口動物を二分する大系統の一つ(螺旋/冠輪動物)にユニークな、初期胚の分裂様式である。典型的な螺旋卵割を行う軟体動物の巻貝では、左右逆に発生する集団・系統・グループがくり返し出現した。巻貝のうち、右巻きの有肺類では、受精卵がまず動物極から見て時計回り、次に反時計回りという分裂を交互にくり返す。左巻きの有肺類では、卵割が右巻きとは逆の順番で進行し、巻き方向だけではなく内臓の配置も左右反転した個体が発生する。有肺類4科の、右巻きあるいは左巻きの野生集団にみつかる逆巻変異を交雑した結果は、表現型の変異が単一の母性効果因子の潜性変異に起因することを支持する。これまでに逆巻変異の責任因子が探索されたモデル系(淡水生と陸生の2種)では、変異ホモ接合体が産む子供(初期胚)は、卵割後の細胞配置にみる左右極性が、野生型より量的に小さく、個体間で大きくばらつく。多くの胚は、異常な形態形成を経てベリジャー幼生になる以前(孵化するはるか前)に死亡する。孵化まで生存した逆巻個体は、野生型の鏡像対称とは統計的に有意にずれた形状に成長する。すなわち、逆巻変異個体から得られたどちらの変異遺伝子も、子供の生存率の低さが原因で淘汰される運命にあった。しかし当然ながら、有肺類の右巻種の右巻胚(野生型)と左巻種の左巻胚(野生型)はどちらも、互いにちょうど左右反転した螺旋卵割を経て、正常に発生する。この正常な逆巻発生を実現する分子機構は、これまでに探索されていない。本セミナーでは、上記モデル系2種の、初期胚の細胞配置(左右極性)に顕在する量的変異に着眼し、古典的な量的遺伝学の手法により得られた結果について議論する。

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・進化系統学研究室