第1386回生物科学セミナー

デグロン技術を駆使してヒト細胞におけるDNA複製の謎に迫る

鐘巻将人 教授(国立遺伝学研究所)

2021年11月02日(火)    13:00-14:30  Zoomによるweb講義   

CRISPR-Cas9ゲノム編集により遺伝子改変が飛躍的に容易になり、ノックアウト細胞やノックアウトマウスが日常的に作製されて様々な研究に使われるようになりました。しかしながら、DNA複製のように生存に必須な細胞機能に関与する遺伝子のノックアウトは致死に至ることが多く、この場合は研究ができません。またsiRNAのようにタンパク質翻訳前段階を制御する方法は、標的タンパク質の除去に時間がかかり、タンパク質機能を直接的に反映する表現型が得られない場合もあります。そこで、これらの問題を回避するため、私たちは植物が持つタンパク質分解経路を酵母やヒト培養細胞に移植し、植物ホルモンオーキシンを添加することで、標的タンパク質を迅速分解するオーキシンデグロン(auxin-inducible degron: AID)法を開発しました(参考文献1)。

しかしながら、従来のAID法はオーキシンを添加しなくても標的タンパク質が弱く分解され、分解誘導に必要なオーキシン濃度が高いことが問題でした。さらに、これまで誰もAID法をマウス個体に応用することに成功していませんでした。そこで、私たちはこれら問題点を一挙に解決したAID2を開発に成功し、出芽酵母、ヒト培養細胞、マウス個体において迅速なタンパク質除去が可能なことを発表しました(参考文献2)。

私たちの研究室では、上記の遺伝学技術開発を進めながら、それらを駆使してヒト細胞において、染色体DNAがどこから複製され、どのような因子によりDNA複製が制御されているのか、その分子メカニズムを明らかにしようと研究を進めています。本セミナーでは、AID2法の開発と応用から、最新のDNA複製研究の成果までお話したいと思っています。

参考文献
1. Nishimura K, Fukagawa T, Takisawa H, Kakimoto T, and Kanemaki M. An auxin-based degron system for the rapid depletion of proteins in nonplant cells. Nature Methods, 6, 917-922, 2009
2. Yesbolatova A, Saito Y, Kitamoto N, Makino-Itou H, Ajima R, Nakano R, Nakaoka H, Fukui K, Gamo K, Tominari Y, Takeuchi H, Saga Y, Hayashi K, and Kanemaki MT. The auxin-inducible degron 2 technology provides sharp degradation control in yeast, mammalian cells, and mice. Nature Communications, 11, 1-13, 2020

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・遺伝学研究室