第1369回生物科学セミナー

全ゲノム重複による遺伝子進化

牧野能士 教授(東北大学大学院生命科学研究科)

2021年11月17日(水)    17:05-18:35  Zoomによるweb講義   

脊椎動物は2度の全ゲノム重複を経験した極めて稀な動物である。全ゲノム重複が脊椎動物のゲノム進化に与えた最大のインパクトは、遺伝子量変化に敏感な量感受性遺伝子(Dosage sensitive genes; DSG)を大量に重複させたことであろう。個々の遺伝子重複が有害となるDSGであっても、全遺伝子が重複する全ゲノム重複では遺伝子間の相対量が変化しないため、有害な影響を受けることなく遺伝子コピーを作ることができる。実際にHOX遺伝子群に代表される転写制御・発生に関わるDSGの多くは、脊椎動物でのみ重複している。このように全ゲノム重複により重複した遺伝子をオオノログと呼ぶ。我々は比較ゲノム解析により、オオノログが進化過程において重複しにくい遺伝子群であること明らかにした。また、オオノログの遺伝子量変化(重複や消失)が、ダウン症候群、精神疾患、アルツハイマー症などの様々な疾患の原因となっていることを示してきた。これら一連の研究成果は、オオノログとなったDSGが遺伝子量のバランスを維持するために、重複後も消失することなくゲノム上に保持されてきたことを示している。本セミナーでは、DSGが全ゲノム重複でのみ重複する性質を利用して、動物において全ゲノム重複が生じた時期を推定する研究についても紹介する。

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・脳機能学研究室