第1365回生物科学セミナー

植物における「性」の成立と揺らぎを駆動するゲノム進化

赤木剛士 准教授(岡山大学大学院環境生命科学研究科)

2021年07月14日(水)    17:05-18:35  Zoomによるweb講義   

「性」は生物の種内遺伝的多様性を維持する根幹機構である。しかし、画一的な性決定機構を有する哺乳類とは対照的に、植物は両全性を起源とし、系統特異的に何度も独立して遺伝的な性(雌雄性)を成立させてきたことが示唆されている。さらに、植物は「花」という単位に独立した性表現を持つことが出来るため、個体内における性表現が可塑的であり、動物では見られない様々な性の揺らぎの進化を示す。しかし、植物の性別決定を担う遺伝因子・分子機作はつい最近になるまで解明されておらず、その多様性を駆動する進化過程も謎に包まれていた。
本セミナーでは、われわれ日本人には馴染みの深い「柿」を含むカキ属植物や、キウイフルーツを含むマタタビ属を中心として、近年になって急速に明らかになってきた植物の性決定の進化メカニズムを紹介する。植物の性決定遺伝子の成立や可塑化は系統特異的な過程ではあるものの、ゲノム進化学的観点においては、その方向性・制約性に共通性が垣間見られており、「植物に特別な事情」ゆえの鍵となったゲノムの進化パターンについて議論したい。

参考文献
1. 赤木剛士 植物の性:遺伝子から解き明かす「性」の不思議な世界(一色出版・田中実 編)
2. 増田佳苗・赤木剛士 被子植物における性の成立と進化~性の多様性を駆動する「植物らしさ」とは?(化学と生物 2021. vol.59 pp23-29)

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・遺伝学研究室