第1362回生物科学セミナー

種内多様性の進化とその創発的機能

高橋佑磨 特任助教(千葉大学大学院理学研究院生物学研究部門)

2021年06月23日(水)    17:05-18:35  Zoomによるweb講義   

生物集団は、その集団の曝されている環境に対して進化を通じて最適化されていく。このことは、多くの生態学や進化学の理論の前提となっている。しかしながら、自然界では、突然変異や遺伝子流動などの確率的過程や自然選択などの過程を通じて、集団内に遺伝的な多様性がもたらされることがある。昆虫にみられる種内の形態変異、植物に見られる花色変異、動物に幅広く見られる個性の変異がその例である。集団の人口学的(生態的)動態や進化動態などの高次の生命現象は、集団を構成するメンバーの多様性や、その組成によって決まると考えるのが自然であるので、野外における生物集団の栄枯盛衰を理解するためには、遺伝的な多様性がもたらす集団動態への影響を理解しなければならない。本講演では、動植物を含むさまざまな生物種を用いた実証研究と生態ビッグデータを用いたデータ解析により、多様性の増大に起因する遺伝的荷重(集団への遺伝的コスト)による種の分布拡大の阻害過程や、種内多様性の創発的効果がもたらす集団の栄枯盛衰について検証した研究例を紹介する。さらに、無数の形質や遺伝子の中から種内多様性による創発特性を生み出す
形質や遺伝子を探索するための新たなオミクス解析についても紹介する。これらを通じ、遺伝的な多様性が集団のパフォーマンスに与える影響や、遺伝的多様性の機能を効果に引き出すための戦略について議論したい。

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・植物生態学研究室