第1361回生物科学セミナー

ホヤの変態を司る分子メカニズムの解明

笹倉靖徳 センター長・教授(筑波大学下田臨海実験センター)

2021年06月16日(水)    17:05-18:35  Zoomによるweb講義   

変態は、ほぼ全ての動物グループに認められる現象であり、幼生期と成体期で大きく形態を変化させることでそれぞれに異なる役割を与える等、動物の生存戦略を考える上で重要な現象である。そのような動物の一生を左右する現象でありながら、変態のメカニズムは、昆虫と無尾両生類の代表例を除いて明らかになっているとは言いがたい。ホヤは海産の脊索動物であり、そのオタマジャクシ型の遊泳幼生には脊索や背側中枢神経系といった、脊椎動物と共通した形質を備えている。ホヤは成体に至る際に変態し、自由遊泳性の生活スタイルを捨て、固着生活を送るようになる。ホヤの変態は昆虫や両生類とは大きく開始機構が異なっている。ホヤの幼生は摂食をせず、固着器官による固着が変態開始のトリガーとなる。固着に引き続いて、尾部吸収、成体組織の成長といったイベントが生じ、変態が完了する。私の研究グループでは、ホヤの変態を司る分子メカニズムを長年追いかけている。そのきっかけとなったのは、一つの突然変異体が得られたことであった。この変異体の解析から始まり、変態イベントのそれぞれを制御するパスウェイの存在、それらを担う分子の同定など、ホヤの変態現象の詳細が解明されつつある。本セミナーでは、過去から最近にかけて判明したこれらの知見や現在進行中の研究について紹介したい。

参考文献
Transposon-mediated insertional mutagenesis revealed the functions of animal cellulose synthase in the ascidian Ciona intestinalis. PNAS 102, 15134-15139 (2005)
Delineating metamorphic pathways in the ascidian Ciona intestinalis. Dev Biol 326, 357-367 (2009)
GABA-induced GnRH release triggers chordate metamorphosis. Curr Biol 30, 1555-1561

担当: 東京大学大学院理学系研究科・附属臨海実験所