第1355回生物科学セミナー

神経活動に依存した脳神経回路の発達

竹内春樹 特任准教授(東京大学大学院薬学系研究科)

2020年12月21日(月)    17:05-18:35  WebExによるweb講義   

 神経細胞には可塑性と呼ばれる特性がある。神経細胞の可塑性とは、刺激に伴う神経細胞間のシナプス伝達効率の変化、樹状突起や軸索の伸長といった機能的、構造的変化のことを指し、神経回路の発達や記憶の形成といった正常な脳機能の発現に極めて重要な役割を果たす。この神経可塑性を説明するモデルとして、1949年にDonald O. Hebb博士が提唱したヘブ則がある。これは、神経細胞間のミリ秒単位の同期的な発火活動を、神経可塑性を誘発する引き金とする考えであり、“Neurons that fire together wire together.”というフレーズで親しまれている。
 我々は、神経可塑性のメカニズムについて、嗅覚系の神経回路形成をモデルに研究を進めている。高速カルシウムイメージング及び光遺伝学による神経活動の観察、操作を通じて、今回我々は発達期に生じる数秒~数分単位の特徴的な神経活動パターンが細胞内の遺伝子の発現を調節し、多数の分子の組み合わせから成る分子コードを作り出すことで神経軸索の伸長方向をガイドすることを明らかにした。本セミナーでは、一連の嗅覚神経回路の形成機構を研究する中から見えてきたヘブ則とは異なる新規の神経可塑性メカニズムを説明するとともに、そのメカニズムの普遍性について議論したい。

参考文献
1. ※Nakashima A, ※Ihara N. et al. Science, DOI: 10.1126/science.aaw5030 (2019)
2. Ihara N. et al. Eur. J. Neurosci Vol.44, 1998-2003 (2016)
3. ※Nakashima A, ※Takeuchi H. et al. Cell, Vol.154 1314-1325 (2013)
4. ※Takeuchi H, ※Inokuchi K. et al. Cell, Vol.141 1056-1067 (2010)
5. ※Serizawa S, ※Miyamichi K, ※Takeuchi H. et al. Cell, Vol.127 1057-1069 (2006)

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・飯野研究室