第1349回生物科学セミナー

メダカを用いた社会神経科学の最前線

竹内 秀明 教授(東北大学生命科学研究科・脳生命統御科学専攻)

2020年06月22日(月)    16:50-18:35  Zoomによるweb講義   

集団で生活する動物の中には他者を見分ける能力を持つ種が存在し、他者との関係性に基づいて適切な社会行動を選択する。例えば,順位制を営む熱帯魚の一種(シクリッド)は集団メンバーを見分けて、お互いの優劣関係を記憶し、上位個体からは逃避して下位個体には接近する 。これまでこのような魚類の社会認知を介した行動選択に関わる神経基盤は不明であり、哺乳類と共通性があるか不明であった。この問題にアプローチする目的で、分子遺伝学的手法が利用できるメダカを対象にいくつかの社会行動実験系を確立した。その結果、メダカにも個体を見分ける能力があり、社会関係に基づいた行動選択をすることを発見した。例えば、 メスは長時間そばにいたオスを視覚記憶して、「見知ったオス」を配偶相手として選択し、「見知らぬオス」を拒絶する(Science 2014, eLife 2017)。また変異体を作成して、神経修飾系である GnRH3ニューロン (Science 2014) やオキシトシンシステム(PNAS 2020) が行動選択にバイアスを与えることを見出した。本講義では社会適応に関わる脳機能の進化的起源や脊椎動物に保存された共通設計図についても議論していきたい。

参考文献:Science 343, 91-94 (2014), eLife, 6, 24728 (2017), Proc Natl Acad Sci USA, 117, 4802-4808 (2020)

担当:東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・細胞生理化学研究室(久保教授)