第1331回生物科学セミナー

生物が鉱物を形成するバイオミネラリゼーションの分子機構

鈴木 道生 准教授(東京大学農学生命科学研究科)

2020年07月15日(水)    16:50-18:35  Zoomによるweb講義   

生物は有機物だけでなく多くの無機元素を生存のため必要としている。無機元素は、浸透圧調節、酸化還元、タンパク質の構造維持、硬組織の形成など、様々な生理機能に利用されている。その中でも、生物が無機元素を鉱物として沈着させる現象をバイオミネラリゼーションと呼ぶ。バイオミネラリゼーションで形成される生体鉱物は、無機的に合成される鉱物と異なり、少量の有機分子を含み、鉱物結晶の形態、多形、方位などが非常に緻密に制御されているのが最大の特徴である。このように制御された鉱物は、特異的な光学特性を有することや非常に強靭な構造となることが知られている。人類がこのような鉱物を材料として工業的に合成することは非常に困難な場合が多いが、生物は常温常圧で有機溶媒や有害な副産物などを排出することなく生成している。このような生物のバイオミネラリゼーションに関与するような有機分子を明らかにすることで、環境低負荷型の高機能性材料の新たな合成法の開発、生物を利用した環境からの資源回収や重金属汚染の浄化技術の利用、生物の硬組織形成の進化的な起源の解明などに貢献すると考えられる。
本セミナーでは、日本で真珠養殖に利用されているアコヤガイの貝殻真珠層の形成に関与する基質タンパク質の構造・機能解析[1]と分子進化[2]を中心に、様々な貝類貝殻のミネラリゼーションや微生物を用いたミネラリゼーション[3]などの研究も合わせて紹介する。

参考文献
[1] Suzuki et al., Science, 325, 1388-1390, (2009).
[2] Suzuki et al., Mar. Biotechnol., 15, 145-158, (2013).
[3] Kikuchi et al., Sci. Rep., 6, 34626, (2016).

担当:東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・生体情報学研究室(岡教授)