第1330回生物科学セミナー

恐怖記憶を制御するカテコールアミン神経の多様性

植松 朗 講師(東京大学ニューロインテリジェンス国際研究機構)

2020年07月08日(水)    16:50-18:35  Zoomによるweb講義   

 恐怖体験を記憶することは危険を予測し生存確率を上昇するために重要な脳の機能です。一方で、安全な環境で恐怖記憶を繰り返し想起すると、恐怖の記憶が上書きされ恐怖記憶が弱められる、消去と呼ばれる機能があることも知られています。これら恐怖記憶の形成や消去には脳内のドーパミンやノルアドレナリンといったカテコールアミンが関係すると考えられていますが、詳細な神経回路や機能については解明されていませんでした。我々は光遺伝学的手法による回路操作により、恐怖記憶の形成と消去時におけるカテコールアミン神経の時間特異的な役割を解明しました。さらに、各カテコールアミン神経は多様性が存在し、投射部位によって機能が異なることを発見しました。本講演ではこれら知見の概要について紹介させていただくとともに、恐怖記憶の抑制過程を解明する新たな取り組みを紹介します。

参考文献
Luo R, Uematsu A et al., A dopaminergic switch for fear to safety transitions. Nature Communications (2018)

Uematsu A, Tan BZ, et al., Modular Organization of the Brainstem Noradrenaline System Coordinates Opposing Learning States. Nature Neuroscience (2017)  

担当:東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・脳機能学研究室(榎本教授)