第1008回 生物科学セミナー

細胞運命を決めるリボソームRNA遺伝子の機能

小林武彦 先生(国立遺伝学研究所)

2014年10月10日(金)    16:40-18:10  理学部2号館 講堂   

リボソームRNA 遺伝子(rDNA)は100コピー以上が連なった巨大反復遺伝子群を染色体上に形成している。その繰り返し構造故に、コピー間での組換えが頻繁に起こりコピーを失っている。しかし独自の遺伝子増幅作用が減った分のコピーを常に回復させており、結果的にrDNAは減ったり増えたりを繰り返す「ゲノム中で最も不安定な領域」となっている。ゲノムの不安定性は細胞老化の原因となることが知られており、rDNAはその老化誘導の中心的な役割を担っている。

 我々は酵母の娘細胞にみられる若返り現象(初期化)に伴い、rDNAの安定性の回復が起こることを見つけた。酵母の娘細胞は動物細胞の幹細胞や生殖細胞に相当する細胞であり、この若返り現象は種を維持するために必須である。本セミナーでは若返り現象におけるrDNAの役割について議論したい。

参考文献
Kobayashi, T. Ribosomal RNA gene repeats, their stability and cellular senescence . Proc Japan Acad. Series B, 90119-129, 2014
Saka, K., Ide, S., Ganley, A.R., and Kobayashi, T. Cellular senescence in yeast is regulated by rDNA noncoding transcription.? Curr Biol. 23:1794-1798, 2013
Ide, S., Miyazaki, T., Maki, H., and Kobayashi, T. Abundance of ribosomal RNA gene copies maintains genome integrity. Science 327, 693-696, 2010
小林武彦企画 特集「ヒトゲノム中98%の“未踏領域” 非コードDNAに挑む」
実験医学 2012年9月号