人類学演習Ⅳ/人類学セミナー4

循環系の系統発生と、頭蓋底神経血管孔の人類化について

澤野 啓一 先生(神奈川歯科大学・災害医療講座・法歯学)

2019年11月22日(金)    16:50-18:35  理学部2号館 201号室   

 高等動物の体内の各組織が順調に活動して行く為には、循環系の果たす役割が非常に大きい。だが骨や歯の場合とは異なり、化石種の循環系の実態は、現時点では、大部分が不明である。少なくとも二心房二心室の真獣類型の循環系と、それ以前のタイプとの間には大きな断絶が有る。Homo spiens sapiensの誕生と、その前段階に於ける脳容積の急速な拡大は、脳の血流に関しても、大きな変更を必要とした。脳は体の大きさに対して、相対的にあまりにも大きい存在と成ってしまったのである。大きな臓器、活動が活発な臓器は、当然ながら、多くの血流を必要とする。哺乳類では、脳は頑丈な頭蓋に囲まれているから、頭蓋の内外の交通路は頭蓋底神経血管孔(Canales et foramina)に限定されている。血管内に於ける血液の流れは、Poiseuille以来、多くの研究者に拠って追及されて来たが、弾力性と分岐が多数有る管の中での拍動流の解明は非常に難しい。頭部の血液供給の場合には、途中の頚部が細く成っていることと、脳を頭蓋が取り囲んでいることとにより、腹部の場合とは大きく異る空間的な制約が存在する。そうした基本的な制約が存在する上に、ヒトの場合には、短い時間の中で脳が急速に拡大したことによる制約が加わっている。脳への血液供給路は、ポンプシステムと循環システム全体の問題、血管路と血流動態の問題、頭蓋底通過と頭蓋内灌流の問題に区分して検討することが可能である。特にCanalis caroticusやQuadrangulus- ovalo-jugularisを中心に、ヒトと類人猿、あるいはその他の動物との異同を論ずる。

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<今後の予定>
 11月 29日 田村 光平 先生
 12月 6日 近藤研担当回
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