第1273回生物科学セミナー

共生を知る、理解する、創り出す

深津 武馬 教授(産業技術総合研究所 首席研究員 / 生物科学専攻 兼任教授)

2019年09月10日(火)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

生物界において微生物との共生関係は普遍的にみられ、重要な生物機能を担い、基礎のみならず応用、医学上も大きな注目を集めている。しかし高度な共生関係の大部分は非モデル生物間の密接な相互作用および共進化の帰結であり、その成立過程や機能解明へのアプローチは容易でなく、重要であるが未探索の研究領野である。「共生進化の現場を実際に観察し、詳しく調べた例はない」「共生進化の帰結としてゲノム縮小し、もはや培養できない共生微生物では遺伝子操作や機能解析が困難である」といった言明は、共生を実証的に理解することの難しさを端的に表現している。
 なんとかして、これらの困難を克服するブレークスルーを実現し、共生研究分野に画期的な新展開をもたらしたい。今回は、私たちが独自に確立した昆虫―大腸菌人工共生系を用いた実験共生進化解析、および培養困難な共生細菌の遺伝子操作や全ゲノムクローニングを可能にする新規技術開発を突破口として、共生進化の過程および機構に関する理解を従来なし得なかったレベルまで到達させ、もって共生という生命現象の理解における1つの究極の形を提示することをめざす、現在進行中の取り組みについて紹介する。