第999回 生物科学セミナー

チャルメルソウ属種分化機構の進化遺伝学

奥山 雄大(国立科学博物館植物研究部筑波実験植物園)

2014年10月01日(水)    16:40ー18:10  理学部2号館 講堂   

30万種を越える被子植物。その大きな魅力である多様な花の姿は、様々な訪花性昆虫との共進化の産物です。例えば近年数多くの植物群で分子系統解析による種の系統樹が得られていますが、送粉者の転換に伴う花形質の分化は被子植物の多様化過程で頻繁に起きていることが分かっています。しかし、植物へのいかなる選択圧によるどのような遺伝的変異が実際に生殖隔離をもたらし、種分化に結びついたのでしょうか?この問題を明らかにするには、植物種に特有の形質を野外で実際に観察される生活史特性と結びつけて理解でき、かつその形質を支配する遺伝子を進化遺伝学的に解析できるような系が必要となります。このような類い稀な系として、私は構成種の大部分(13種)が日本固有種であり、かつ遺伝学的に扱いやすい特性を数多く備えたチャルメルソウ属に着目しています。
本セミナーでは、研究の足がかりとなったチャルメルソウ属とその送粉者であるキノコバエ類との奇妙で緊密な関係の発見についてまず紹介します。さらに、この送粉共生を支配する匂い物質とその生合成に関わる遺伝子群の単離から明らかになった、「送粉者が介在した種分化」についての最新の進化遺伝学的知見を紹介します。

参考文献
Okuyama et al. 2012. Entangling ancient allotetraploidization in Asian Mitella: An integrated approach for multilocus combinations. Molecular Biology and Evolution 29: 429?439.
Okuyama and Kato. 2009. Unveiling cryptic species diversity of flowering plants: successful species circumscription of Asian Mitella using nuclear ribosomal DNA sequences. BMC Evolutionary Biology 9: 105.
Okuyama et al. 2008. Parallel floral adaptations to pollination by fungus gnats within the genus Mitella (Saxifragaceae). Molecular Phylogenetics and Evolution 46: 560?575.