第986回 生物科学セミナー

時計蛋白質KaiCによるシアノバクテリアの時計機構

近藤 孝男 特任教授(名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻)

2014年09月30日(火)    16:40-18:10  理学部2号館 講堂   

我々が腕時計を利用するように、動物や植物あるいは微生物も概日時計を利用して地球上の昼夜環境下で効率的な生活を実現している。概日時計は「時計」として機能するための特性を備えており、我々ヒトも含め、生命が進化の過程で獲得した生命活動調節のための細胞内の基本装置である。
 私たちは1990年から概日時計を示す最も単純な生物としてシアノバクテリアに注目し、生物発光レポーターを利用した実験系を開発し、分子遺伝学的なアプローチでその時計遺伝子群kaiABCを見いだした。当初、kaiC発現の負のフィードバック制御が振動発生機構と考えられたが、遺伝子が発現しない暗期中でもKaiCのリン酸化のサイクルだけは続くことが見出され、さらに3つの蛋白質(KaiA,KaiB,KaiC)とエネルギー源としてのATPと一緒に混ぜるだけで、KaiCのリン酸化振動を再構成することに成功した。このリズムの周期は温度を変えても変わらず,その位相は温度サイクルのよりショウジョウバエとほとんど同じ様式で同調される。即ち、この3つのタンパク質による振動は概日時計の3つの特性を完全に備えている(さらに、このリズムは蛋白分子間で位相同調も可能で、ほとんど減衰しない)。KaiCはごく弱いATPase活性(15ATP/day/KaiC)をもつがこの活性は温度補償されているのみでなく、周期の逆数(振動数)に比例する事が見いだされた。この事実はKaiCが概日時計の周期を規定し,安定した振動発生の根源である事を示している。このATPaseはどのように概日リズムを発生させているのだろうか。このセミナーでは概日振動の発生機構を他の生物振動との違いに着目しながら、議論して行きたい。
参考文献
Ishiura M, et. Al. (1998) Science 281: 1519-1523.
Tomita, J. et. al. (2005) Science 307: 251-254.
Nakajima M, et. al. (2005) Science 308: 414-415.
Terauchi K, et. al. (2007) Proc. Natl Acad. Sci. USA. 104: 16377-16381.
Ito H, et. al. (2007) Nature Struct. Mol Biol. 14, 1084-1088.
近藤孝男 細胞工学 Vol.30 No.12 2011 1238-1243
秋山修二 近藤孝男 細胞工学 Vol.30 No.12 2011 1269-1276
座談会(近藤孝男ほか)、細胞工学  Vol.30 No.12 2011 1244-1247
近藤孝男 概日時計 21世紀の分子生物学 日本分子生物学会編 212-230, 2011