第1208回生物科学セミナー

真核細胞と葉緑体・光合成性細胞内共生体の協調増殖機構

宮城島 進也 先生(国立遺伝学研究所)

2019年01月18日(金)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

真核細胞内のエネルギー変換器、ミトコンドリアと葉緑体は、10億年以上前にバクテリア細胞が真核細胞内に共生して誕生した。その他、真核細胞が別の細胞を取り込み、新機能を獲得する例は様々な真核生物の系統で見受けられる。真核生物は、ミトコンドリアや葉緑体をもつことで、環境中に豊富にある酸化還元電位の高い酸素を用いた高効率のエネルギー変換を行えるようになり、その生息域を拡大していった。二種の細胞の世代を超えた持続的統合による絶対共生が成立するためには、宿主細胞と共生細胞が協調して成長・分裂する必要がある。
 我々は、細胞内共生系における宿主と共生体(またはそれらに由来する細胞内小器官)の協調増殖機構を以下の3点から理解しようという目的で研究を進めている。(1)葉緑体、ミトコンドリア、その他の細胞内共生細胞の成長・分裂が、如何にして宿主細胞によってコントロールされているのか、(2)逆に、共生体のエネルギー生産・物質代謝にどのように依存ながら、宿主細胞は成長・分裂しているのか(3)これらの機構はどのように進化してきたのか。
 これまでに、主に微細藻類を用いた研究により、葉緑体とミトコンドリアの分裂が、それぞれ祖先のバクテリアと宿主真核細胞の両方に由来する部品から構成されるハイブリッド装置によって引き起こされること、葉緑体・ミトコンドリアの分裂装置形成が宿主細胞周期に制御されること、これらオルガネラ分裂装置の収縮が宿主細胞周期進行を可能とすることにより、宿主・共生体の分裂同調化が可能になったことを明らかにした。さらに、葉緑体・ミトコンドリアにおける電子伝達の活性が落ち、代わりに解糖系が昂進する時間帯、つまり活性酸素種の発生が抑えられる時間帯に宿主の細胞周期進行および細胞分裂がおこることを解明しつつある。本セミナーでは、これらの研究結果を紹介すると共に、その結果を統合して、細胞内共生系における、宿主による共生体の制御、及び、宿主と共生体間での対立回避機構の存在について議論したい。

参考文献
Sumiya, N., Fujiwara, T., Era, A., and Miyagishima, S. (2016). Chloroplast division checkpoint in the algal cell cycle. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 113, E7629-E7638.
Miyagishima, S., Fujiwara, T., Sumiya, N., Hirooka, S., Nakano, A., Kabeya, Y., and Nakamura, M (2014) Translation-independent circadian control of the cell cycle in a unicellular photosynthetic eukaryote. Nat. Commun. 5, 3807.
Miyagishima, S. and Kabeya, Y. (2010) Chloroplast division: squeezing the photosynthetic captive. Curr. Opin. Microbiol. 13, 738-746.