人類学演習Ⅱ/人類学セミナー2

ゲノム情報と古DNAから迫るイネの栽培史

熊谷 真彦 先生(農研機構・高度解析センター)

2018年12月14日(金)    16:50-18:35  理学部2号館 201号室   

作物の栽培化は約1万年前から世界中の様々な地域で始まり、食料の安定的な供給が可能になるに伴い、定住化、人口増加が起こり、社会システムが複雑化し文明の勃興へと繋がった。ヒトによる数千年におよぶ栽培化プロセスの中で、栽培植物は野生祖先種と大きく異なる形質を獲得してきたが、これらの変化の歴史はゲノム情報に記録されている。言うまでもなくアジアではイネの利用が文明の礎となってきた。イネの起源地や伝播の歴史は、生物学、考古学、言語学データから議論されてきており、特に近年には大規模なゲノム解析により多くの知見がもたらされたが、その栽培化過程の議論は未だ決着をみているとは言えない。特にジャポニカとインディカという特徴の異なる2つのグループがいかに生じたのかという問題では単一起源、独立起源、複数起源など複数の仮説が唱えられている。我々は現代のゲノムデータの詳細な解析により、複数回の遺伝子流動がそれぞれのグループにおけるゲノム構成に大きなインパクトを与えていることを見出した。また、古代に起きた現象を直接見るべく、遺跡から出土するイネ遺物のDNA分析によっても栽培化過程を明らかにすることを試みている。本講義ではこれらイネの栽培化の謎にまつわる近年の研究動向と我々の最新の研究を紹介する。また今後ますます拡大していくゲノム情報をいかに有効活用するのか、wet 研究者が dry 解析を始めるにあたっての tips 等を経験を元にお伝えしたい。

<今後の予定>
 12月21日 諏訪 元 先生(年内最終)
  1月11日 楢崎 修一郎 先生