第1241回生物科学セミナー

概日時計のメラノプシンを介した光調節と食事応答

羽鳥 恵 特任准教授(慶應義塾大学医学部眼科学教室)

2018年11月08日(木)    16:00-17:00  理学部1号館中央棟 341号室   

生物には自律的に時を刻む時計が内在している。例えば睡眠・覚醒や空腹を感じるタイミングなどに見られる一日周期の変化は概日リズムと呼ばれ、このリズムを制御する生体機構を概日時計という。概日時計の周期は24時間からわずかにずれており、これが概日(概ね一日の)時計と呼ばれる所以である。地球の自転に由来する24時間周期との差を補正するために、生物は外からの情報を利用する。つまり概日時計は約一日周期で自律的に発振するだけではなく、光や食事などの刺激を巧みに利用して時刻合わせを行っている。
哺乳類の網膜神経節細胞の数%は青色光受容体のメラノプシンを発現することで、桿体・錐体に次ぐ第三の光受容細胞melanopsin-expressing retinal ganglion cellsとして機能している。この細胞は概日時計の光による時刻合わせ以外にも、瞳孔収縮や気分、学習との関連が報告されており、機能解析が待たれている。一方、食事と時計との関連に関して、時計振幅を増大させる目的でマウスの摂食の時間を活動時間帯の8時間に制限したところ(time-restricted feeding: TRF)、概日時計の振幅が増大し、食事量を減らすことなく肥満や関連病態が防がれることを見出した。齧歯類とヒトでは脂肪組織の体内分布・分子的性質や腸内細菌叢の組成が異なるだけでなく、マウスの主な活動時間帯は夜間である上に数十分以上のまとまった睡眠をとらず一日を通じて摂食行動を行う。そこで、進化的にヒトに近く且つ昼行性である非ヒト霊長類を用いての機能解析も必要になると考え、現在研究を行っている。本セミナーでは、メラノプシンによる光入力や時計と肥満との関連について最近の研究を発表する。