第1203回生物科学セミナー

ゲノム科学で明らかにするサンゴ礁生態系

新里宙也 准教授(大気海洋研究所)

2018年11月14日(水)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

 サンゴ礁は、地球上で最も生物多様性の豊かな生態系の一つである。そのサンゴ礁を形成しているのは、刺胞動物である造礁サンゴである。造礁サンゴには、光合成を行う微細藻類、褐虫藻(Symbiodinium)が細胞内に共生しており、両者は相利共生関係を築いている。しかし温暖化などの地球規模の環境変動により、サンゴと褐虫藻の共生関係の崩壊「白化現象」が頻発するなど、サンゴ礁生態系が脅かされている。しかしその基盤となる造礁サンゴの生物学的な知見は不足しており、具体的な対策を取るのは難しい。そこで我々は、造礁サンゴと褐虫藻の全ゲノムを解読し、分子レベルからサンゴを研究する基盤を整えた。
 解読した全ゲノムデータを活用して、サンゴと褐虫藻のゲノム解析、石灰化メカニズム、サンゴ-褐虫藻の共生メカニズムなどの研究に取り組んでいる。最近では、サンゴの遺伝子を実際にノックダウンすることで、遺伝子の機能解析も行った。基礎研究以外にも、天然に匹敵する遺伝的多様性を保ったサンゴ増養殖技術や、海水に含まれる環境DNAを用いたサンゴ礁モニタリング手法の開発なども行っている。本セミナーでは、これまでの研究や最新の研究成果を紹介し、サンゴ礁生態系についてどの程度理解が進んできたのか、紹介したい。

参考文献
Shinzato et al. Using seawater to document coral-zoothanthella diversity: A new approach to coral reef monitoring using environmental DNA. Frontiers in Marine Science, 5:28, 2018
Yasuoka et al. The Mesoderm-Forming Gene brachyury Regulates Ectoderm-Endoderm Demarcation in the Coral Acropora digitifera. Current Biology. 26: 2885–2892, 2016
Shoguchi et al. Draft assembly of the Symbiodinium minutum nuclear genome reveals dinoflagellate gene structure. Current Biology, 23:1399-408, 2013
Shinzato et al. Using the Acropora digitifera genome to understand coral responses to environmental change. Nature, 476: 320-323, 2011