人類学演習Ⅰ/人類学セミナー1

将棋高段者の直観的思考と小脳活動

中谷 裕教 先生(東京大学 大学院総合文化研究科 進化認知科学研究センター)

2018年06月01日(金)    16:50-18:35  理学部2号館 201号室   

ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの脳形態を比較した最近の研究によると、脳全体のサイズには大きな違いはないが、小脳についてはネアンデルタール人の方がホモ・サピエンスと比較して相対的に小さいことが報告されている(Kochiyama et al., 2018)。小脳はどのような機能に関わっているのであろうか?一般には、運動の学習および制御の中枢として理解されている。小脳における運動制御は無意識的でかつ素早いため、練習を始めたばかりの頃は意識的に手足を操作して運動するが、熟練に伴い意識しなくても上手に素早く運動できるようになる。私は、小脳は運動だけでなく認知機能の熟練にも関わっていると考えている。例えば将棋の熟練者の思考は直観的であるが、これは小脳において思考が無意識的かつ素早く行われたためと解釈できる。将棋高段者を対象にした脳機能計測実験の結果を紹介しながら、直観的思考と小脳活動について議論する。