第1197回生物科学セミナー

多能性幹細胞から膵臓β細胞への分化誘導研究

粂 昭苑 教授(東京工業大学生命理工学院)

2018年07月04日(Wed)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

近年、幹細胞技術の進歩がめざましく、多能性幹細胞から多くの細胞種への分化誘導が可能になってきた。私たちは、ヒトES細胞やiPS細胞から膵臓β細胞への分化誘導研究を行っており、試験管内で成体の細胞と同様な機能を持つ分化細胞を作成し、それを用いてヒトのモデル細胞、また、再生医療の細胞源として活用していきたいと考えている。そのため、成熟度の高い膵臓β細胞への分化誘導を促進する化合物のスクリーニング、あるいは、プライマリーの膵臓β細胞の量を増やす化合物のスクリーニングを行い、得られたヒット化合物により、膵臓β細胞の分化や量の制御に関わる新規因子の同定を目指している。一方、培地中の栄養成分が分化制御に重要な役割を担うことが分かった。我々の最近の研究結果から、未分化な多能性幹細胞は、アミノ酸の1つであるメチオニンに対して要求性が高く、長時間メチオニンを含まない培地で培養すると、多能性の破綻、細胞死を引き起こすことが分かった。一方、5時間程度メチオニン不含培地中で培養すると、多能性幹細胞内のメチオニン代謝物であるS-アデノシルメチオニン(SAM)の濃度が減少し、細胞は分化誘導シグナルに対して高い感受性を示すようになる。このように、培地組成による、細胞代謝の制御を通じて分化成熟を制御できると期待される。
今回は、これまで得られた結果を元に、多能性幹細胞の代謝的挙動と分化制御について紹介し、ヒトiPS細胞を用いた発生再生医学研究の我々のアプローチについて紹介したい。

参考文献
1.Sakano D., Choi S, Kataoka M, Shiraki N, Uesugi M, Kume K, Kume S. Dopamine D2 receptor-mediated regulation of beta cell mass. Stem Cell Report 7, 95-109, 2016.
2.Shahjalal HM, Shiraki N, Sakano D, Kikawa H, Ogaki S, Baba H, Kume K., Kume S. Generation of insulin-producing beta-like cells from human iPS cells in a defined and completely Xeno-free culture system. J. Mol. Cell Biol. 6, 394-408, 2014.
3.Shiraki N., Shiraki Y., Tsuyama T., Obata F, Miura M, Nagae G, Aburatani H., Kume K, Endo F, Kume S*. Methionine metabolism regulates maintenance and differentiation of human pluripotent stem cells. Cell Metab. 19, 780-794, 2014.
4.Sakano D, Shiraki N, Kikawa K, Yamazoe T, Kataoka M, Umeda K, Araki K, Mao D, Matsumoto S, Nakagata N, Andersson O, Stainier D, Endo F, Kume K,Uesugi M and Kume S. VMAT2 identified as a regulator of late-stage beta cell differentiation. Nat. Chem. Biol. 10, 141-148, 2014.