第1194回生物科学セミナー

四肢形態再生能力の動物種間差

田村 宏治 教授(東北大学大学院生命科学研究科)

2018年06月13日(Wed)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

ヒトを含め哺乳類は、ほとんどの器官を再生することができない。器官再生には、未分化細胞から作られるその器官を構成する細胞の、①分化、②組織化、③形態構築、が重要で、たとえば哺乳類における器官再生の実現のためには、器官を構成する複数の細胞種を準備しそれらを組織化したうえで、器官に特徴的な形態を再構築することが必要となる。幹細胞生物学と組織工学的技術の進歩をもってしても形態再生のための知見を得にくいのは、哺乳類には形態再生の好適モデルが存在しないことに起因する。自律的な器官再生を目指すにしても、その好適モデルが哺乳類に存在しないことが大きな問題となる。
われわれの研究グループは、哺乳類に最も類縁な動物群における器官形態再生のモデルを両生類に求め、25年近くの長きにわたり、とくに無尾両生類を用いて脊椎動物の四肢形態再生能力の比較研究を行ってきた。無尾両生類の中でもアフリカツメガエルは、中途半端な四肢形態再生能力を持つことが古くから知られている。カエル類の四肢は幼生から成体への変態過程で形成される。この形態形成期の四肢(肢芽)を切断してもツメガエルは四肢形態を再生することができる。しかし変態の進行とともに四肢再生能力は低下し、ある時期からはスパイクとよばれる棒状軟骨のみが四肢切断後に再生されてくる。ツメガエルはひとつの動物種の中で形態再生能力の高い時期と低い時期をもっていることになり、形態再生能力の比較解析や再生能力の亢進実験をするための好適モデル系と考えられる。本セミナーでは、四肢再生幹細胞の可視化と遺伝子発現解析をとおして四肢形態再生能力低下のジェネティック・エピジェネティック要因を特定していく、など、これまでのわれわれの研究を概説する。また、両生類の四肢再生から得られる知見を、皮膚創傷治癒現象を介して哺乳類に応用しようという概念と基礎実験についても紹介する。形態再生研究のこれからの課題と、それにアプローチするために新たに開始した魚類の鰭を用いた再生研究についても議論したい。

参考文献
1. Yakushiji et al. (2007). Developmental Biology, 312, 171-182. (Shh and DNA methylation)
2. Yokoyama et al. (2011). J. Invest. Dermatology, 131, 2477-2485. (Blastema in wound healing)
3. Hayashi et al. (2014). Developmental Biology, 388, 57-67. (Yap1 is required)
4. Hayashi et al. (2015). Developmental Biology, 406, 271-282. (Epigenetic modification)
5. Otsuka-Yamaguchi et al. (2017). Dev. Dyn., 246, 585-597. (Cell lineage in wound healing)