第1173回生物科学セミナー

両側型顕微鏡による網羅的膜電位イメージング法の確立と適用:ヒル神経系における感覚情報処理と仮想運動パターンの解析

冨菜雄介(カリフォルニア工科大学生物学/生物工学部門・ポスドク/海外特別研究員)

2017年09月25日(Mon)    16:50-18:35  理学部2号館 201号室   

動物の感覚情報処理や行動制御の神経機構を理解するためには、中枢神経系を構成する細胞集団において特定の細胞群がどのような神経活動を示すのか調べる必要がある。しかし、 神経回路網における個々の細胞を同定したうえで、活動電位やシナプス電位といった多様な膜電位変化を多数の細胞から同時測定し、そのデータを解析することは、膨大な細胞数を有する巨大脳動物では非常に困難である。近年では、ゼブラフィッシュや線虫といった比較的少数の細胞からなるにおいて、脳全体のニューロンを対象とした網羅的 Ca2+イメージング法が確立されてきた。しかし、Ca2+イメージング法では、閾値下の興奮性シナプス電位や抑制性シナプス電位を捉えることは原理的に不可能とされる。一方、適切な膜電位感受性色素を用いた膜電位イメージング法では、神経計算を知る上で欠かすことのできないあらゆる膜電位変化を網羅的に可視化できる。ヒルやアメフラシでは、1つの神経節や脳における15-50%のニューロン集団から同時に 膜電位を計測する膜電位イメージング法が適用されてきた。
我々は、ヒルの中間神経節の背・腹両側に分布するおよそ400個のニューロンから神経活動を同時記録するために両側型光学イメージング装置を開発した。加えて、次世代膜電位感受性色素VoltageFluorを適用することで、シナプス電位と活動電位の両方を単独試行で検出することに成功している。これらの技術を組み合わせることにより、ヒルの感覚情報処理や行動生成において動員される多数の同定ニューロンの活動を解析することが可能となった。本セミナーでは、イメージング装置の概説と、これを利用した感覚情報処理および運動パターン解析結果の報告を通して、この新奇なイメージング法について紹介を行いたい。

参考文献
Yusuke Tomina, Daniel A. Wagenaar. Whole-ganglion imaging of voltage in the medicinal leech using a double-sided microscope. BioRxiv (2017) doi: https://doi.org/10.1101/145144
http://www.biorxiv.org/content/early/2017/06/19/145144