第992回生物科学セミナー

Gene Expression Commons:グローバルスケール・メタ解析を用いた遺伝子発現のオープンプラットフォーム

清田 純(スタンフォード大学・幹細胞再生医学研究所)

2014年06月24日(火)    17:00~18:30  理学部3号館 412号室   

細胞を投与するという再生医療の責任ある確立には、細胞の振る舞いの全体像を一つのシステムとして理解する必要がある。我々はその基盤の一つとして、細胞の全遺伝子発現を客観的に把握することを可能とするシステム、Gene Expression Commons (https://gexc.stanford.edu) を開発した。マイクロアレイはその測定原理にハイブリダイゼーションを用いるために、各遺伝子プローブ毎にその感度が異なる。そのため通常は、2つ以上のサンプルを比較して、遺伝子発現量の相対的な「差」をプロファイリングすることとなる。その結果、マイクロアレイ上には既知の遺伝子すべてに対するプローブが用意されているにもかかわらず、遺伝子発現量の有意な「差」の情報は一部の遺伝子についてしか得られない。また遺伝子発現の挙動・ダイナミックレンジは遺伝子毎に違うことが予想されるが、我々はそれを知らないために、「差」の質について理解することが出来ない。これはRNAseqを用いた場合でも同じである。
この限界を超えるために、我々はNIH GEOに登録された全てのマイクロアレイ・データをメタ解析し、各遺伝子プローブのダイナミックレンジを算出した。さらにその大量のデータの分布から、遺伝子発現がinactiveからactiveに切り替わる閾値を統計学的に検出しデータベース化した。ここに各自が持つマイクロアレイ・データをマッピングすることにより、全遺伝子の発現の程度を一義的に求めることが可能となる。各サンプルは個別にマッピングされるため、一度マッピングされれば、任意のサンプルに対して比較検討が可能となり、遺伝子発現量の情報は比較対象の組み合わせに影響されることなく、常に同じ値を示す。Gene Expression Commonsはwebインターフェースを介して検索・比較検討、そして各自のデータをアップロードして解析することが可能な、オープンプラットフォームとして設計されている。これによりあらゆる種類の細胞の遺伝子発現の全体像を客観的に把握することが可能となる。