第1129回生物科学セミナー

染色体高次構造と転写制御

白髭 克彦 教授(東京大学・分子細胞生物学研究所・ゲノム情報解析分野)

2017年03月17日(金)    17:00-18:30  理学部3号館 412号室   

コヒーシンは姉妹染色分体間接着の機能以外にも、組換え、修復、転写といった多岐にわたる生命現象において重要な役割を担っている。特にヒトでは我々を含む複数のグループがインシュレータとして転写に寄与することを2008年に発見して以降、コヒーシンは転写制御と染色体高次構造を連動する重要な因子として大きく取り上げられるようになった。ヒトでは骨髄異形性症候群で高頻度にコヒーシン関連因子に機能喪失型変異が見出されている。また、コヒーシン及びコヒーシン関連遺伝子の機能喪失型変異はヒト遺伝病CdLS(コルネリア・デ・ランゲ症候群)の原因であることも報告されており、その患者は、成長障害、精神遅延、心臓・消化器官障害など様々な分化異常に起因すると考えられる症状を呈する。実際に、CdLSの約6割で変異が検出されるコヒーシンローダーNipbl遺伝子や、コヒーシン、コヒーシン脱アセチル化酵素に変異をもつ患者由来の細胞では、コヒーシンの染色体結合部位の減少と、コヒーシン結合領域近傍に位置する遺伝子の発現量に変化が生じることを我々は報告してきた。最近、我々はフィラデルフィアこども病院のクランツ博士とともにCdLSに類似のヒト希少疾患CHOPS症候群の原因遺伝子としてAff4を同定した。これら疾患の遺伝学的、ゲノム学的解析を通して得られた知見と、試験管内再構成系を用いて得られた知見をもとに、コヒーシンによる転写制御の分子メカニズムとその破綻による疾患の分子病態について考えたい。