第1080回生物科学セミナー

根粒形成を正および負に制御する遺伝的機構

寿崎 拓哉(筑波大学生命環境系生物科学専攻遺伝子実験センター)

2016年11月02日(水)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

マメ科植物は、窒素固定細菌の根粒菌との共生器官である根粒を形成することにより、根粒菌が固定した大気中の窒素を窒素栄養として利用することができる。根粒形成では、根粒菌感染がトリガーとなり、宿主の根において根粒発生に向けた皮層細胞の分裂が誘導される。機能的な根粒の形成には、根粒発生の適切なタイミングにおいて、根粒菌の宿主細胞への侵入を必要とする一方で、その侵入様式を制御する機構は未解明な点が多い。本セミナーでは、根粒形成が顕著に遅延するユニークな表現型を示すミヤコグサ突然変異体の解析からわかってきた、根粒菌の宿主細胞への侵入システムの制御に関わる遺伝的機構を紹介する。
植物は、土壌中の窒素栄養環境に応じて根粒形成を調節し、窒素栄養の欠乏時では根粒形成を促進させ、必要十分量存在する時は根粒形成を抑制する。後者の制御系に関わる分子機構を理解することを目指し、これまで我々は過剰量の窒素栄養存在下でも根粒形成の抑制を受けない新規なミヤコグサ突然変異体をいくつか単離してきた。これらの変異体を用いた研究によりわかってきた、窒素栄養に応答した、全身的および根局所的な情報処理による根粒形成抑制機構についても紹介する。

参考文献
寿崎拓哉, 西田帆那 (2016) 根粒形成における負の制御系. BSJ Review 7E: 230-240.
寿崎拓哉, 川口正代司 (2015) 根粒初期発生における細胞リプログラミング機構. BSJ Review 6A: 63-71.
Suzaki, T., Yoro, E. and Kawaguchi, M. (2015) Leguminous plants: inventors of root nodules to
accommodate symbiotic bacteria. Int. Rev. Cell Mol. Biol. 316: 111-158.
Suzaki, T. and Kawaguchi, M. (2014) Root nodulation: a developmental program involving cell fate
conversion triggered by symbiotic bacterial infection. Curr. Opin. Plant Biol. 21: 16-22.