人類学演習/人類学セミナーⅠ・Ⅱ(人類学談話会)

ネアンデルタール人の脳の形

近藤修先生(東京大学生物科学専攻・生物学科 形態人類学研究室)

2016年06月17日(金)    16:50-18:35  理学部2号館 402号室   

最近の「交替劇」研究の進展と、化石形態学の取り組みを紹介する。

考古学的な枠組みとして、ヨーロッパにおける「交替劇」の年代に関して大きな進展があった。放射性炭素年代測定の技術改良と、既知の報告の再調査により、現生人類がヨーロッパ(と西シベリア)に拡散したのが4万5千年にさかのぼり、最後のネアンデルタール人がおよそ4万年前に絶滅したことが示された(Highamet al., 2014など)。もうひとつは、古人骨ゲノムの回収・解析技術の進歩に伴い、ネアンデルタール人のゲノムが直接比較できるようになり、「交替劇」に関して「混血」の証拠が示された。さらに混血後のゲノム進化より、ネアンデルタール人由来のゲノムを排除している(現生人類本来の)領域を同定し、その中に多くのヒト特有な遺伝子の候補がリストされるようになった。この中には、脳皮質の発達や発話機能(FOXP2)、自閉症にかかわる遺伝子が含まれているという。
我々は「交替劇」の「学習仮説」検証プロジェクトにおいて、ネアンデルタール人と現生人類の「化石脳」を推定し、形態学的手法と、脳科学的手法により比較をおこなった。双方に共通して、現生人類の脳はネアンデルタール人と比べて頭頂部が発達し、小脳が相対的に大きいことが示された。小脳の機能は運動制御のみならず、さまざまな脳の入出力をモデル化して制御する(学習)ことが知られており、ネアンデルタール人と現生人類の脳機能の差を考えるヒントとなるかもしれない。