人類学演習/人類学セミナーⅠ・Ⅱ(人類学談話会)

メソアメリカ先住民の起源を探る:古代ゲノム分析方法の課題

水野 文月先生(東邦大学医学部法医学講座)

2016年01月08日(金)    16:50-18:35  理学部2号館 323号室   

最新の遺伝学的研究によれば、アメリカ先住民の祖先はユーラシア大陸北東部からベーリンジアへと進出し、そこでしばらく隔離生活を送った後、無氷回廊が出現する以前に北アメリカ大陸北西岸を経由しながら比較的短期間で、メソアメリカを経てて南アメリカ大陸の南端まで広がったと考えられている。メソアメリカのような熱帯・温帯地域の土壌から出土する古人骨試料では、非常に保存環境の良い場合を除き、DNAは微量しか残っていなことに加え、骨への土壌菌の侵入によって内因性DNAの割合は0.1%以下であるため、従来の分析方法では困難であった。そこで我々は、温帯地域の古人骨試料をもちいてミトコンドリア全ゲノムを集団単位で獲得する方法を構築してきた。本発表では、試行錯誤を重ねてきた方法によって、東アジアから出土した古人骨試料を分析した結果を報告する。ミトコンドリア全ゲノム塩基配列、さらに、髪や瞳の色、耳垢などの形質や、生活習慣病等の疾患と関連する多型部位の核ゲノム情報からいくつかの遺伝的特性を得ることにも成功した。メソアメリカの古人骨試料をもちいて集団単位の分析を可能にする展望と課題を議論したい。