第1066回生物科学セミナー

独自開発の微生物パッチクランプシステムを活用したイオン輸送系の解析

川崎 寿教授(東京電機大学工学部)

2016年01月06日(水)    14:00-15:00  理学部3号館 325号室   

パッチクランプ法は、先端直径1~数µmのガラスピペットに捕捉した生体膜に含まれる輸送系によるイオンの輸送を電流として計測する電気生理学技法のひとつである。
従って、定量性が高いことはもちろん、リアルタイム計測であること、通常の生化学実験では困難な膜張力の制御が可能であることなど優れた特徴を有する。
また、イオンチャネルの解析においては、1分子(1チャネル)計測が可能である。
このように、パッチクランプ法はイオン輸送系解析法として優れた手法であるが、微生物細胞への適用は極めて限定的である。
その主たる理由は、ガラスピペットの先端直径に対して微生物細胞が小さいこと、微生物の細胞表層は細胞壁等を有するため、ガラスピペットに生体膜を捕捉することが困難なことである。
本セミナーでは、我々が独自に開発した微生物パッチクランプシステムとそれを活用した解析例を紹介する。
我々のシステムが他の微生物パッチクランプシステムと異なる大きな点は、以下の3点である。
(1) Whole cell modeでの解析が可能
(2) 反転膜液胞の使用が可能
(3) 上記(1), (2)での測定においても、膜外液の置換が可能
 上記の特徴を活用することで、通常の微生物パッチクランプ解析で使用される、生体膜のごく一部をガラスピペット先端部に切り取ったexcised patch modeでは困難な解析が可能である。例えば、whole cell を用いることで、excised patch と比較して、解析対象の輸送系の数を増やすことができるため、膜内外の電位差が無い条件でのチャネルの解析やチャネルと比較して輸送活性が低い輸送系の解析が可能である。
このユニークな微生物パッチクランプシステムを活用した輸送系解析例として、以下の2例を紹介する。
(1) グルタミン酸生産微生物のグルタミン酸排出チャネル
(2) E. coli呼吸鎖の末端酸化酵素
 輸送系タンパク質の構造解析を柱のひとつとして生命科学をリードする皆さんと、微生物パッチクランプシステムのさらなる活用の仕方や技術開発の方向性について議論したい。