第1060回生物科学セミナー

組織特異的な神経—血管ネットワークができるしくみ〜秩序ある枝分かれ構造を決定するメカニズム〜

向山 洋介(National Heart, Lung, and Blood Institute, National Institutes of Health)

2015年11月11日(水)    15:00-16:30  理学部2号館 講堂   

神経と血管はほぼすべての組織にくまなく張り巡らされ、組織の生理機能の基盤を支えている。興味深いことに、末梢神経と血管は頻繁に伴走する分岐パターンを形成することが16世紀のマクロ解剖学書には既に記載されている。われわれは末梢神経と血管が伴走する形態的特徴を手がかりに、恒常性と規則性を備えた神経および血管分岐パターンが形成される基本メカニズムの解明に取り組んでいる。

マウス胎仔の血管網発生は、組織発生とともに蜂の巣状の原始血管叢が浸潤し、心血流による血管網リモデリングを経て階層的な成熟血管網が構築される。マウス胎仔皮膚では、原始血管叢浸潤後に感覚神経線維が伸長し、血管網リモデリングの過程で感覚神経線維分岐パターンに沿って動脈血管が形成される1。つぎに動脈血管分岐パターンに沿って交感神経線維が伸長し、静脈血管も動脈に沿って形成される。さらにリンパ管血管網が浸潤し血管網とともに体液の恒常性維持に働く2、3。本講演では、ホールマウント3Dイメージングによる末梢神経線維および血管分岐パターンの解析と、感覚神経束周辺の低酸素環境にはじまり連鎖反応のごとく分岐パターンが決定する分子メカニズムについて概説する。さらに組織特異的な神経—血管ネットワークができる発生プログラムを組織再生に活かす可能性も議論したい。
参考文献
1. LI, W., KOHARA, H., UCHIDA, Y., JAMES, J.M., SONEJI, K., CRONSHAW, D.G., ZOU, Y-R., NAGASAWA, T., MUKOUYAMA, Y. (2013) Peripheral nerve-derived CXCL12 and VEGF-A regulates the patterning of arterial vessel branching in developing limb skin. Developmental Cell 24: 359-371
2. JAMES, J.M., NALBANDIAN, A., MUKOUYAMA, Y. (2013) TGFß signaling is required for sprouting lymphangiogenesis during lymphatic network development in the skin. Development 140: 3903-3914
3. UCHIDA, Y., JAMES, J.M., SUTO, F., MUKOUYAMA, Y. (2015) Class 3 Semaphorins negatively regulate dermal lymphatic network formation. Biology Open 4:1194-1205