動物行動の仕組みはどこまでわかったか?
-神経行動学の世界へようこそ-
- 日程:
- 2014年8月2日(土)9:00~13:00
- 会場:
- 北海道大学札幌キャンパス 学術交流会館 第1会議室
神経科学と動物行動学の最前線に触れてみよう!
世界をリードする神経行動学者が、実際の動物やロボット、コンピュータ上で動く神経回路の実物を展示しながら、研究の世界を分かりやすく解説します。
プログラム
9:00-9:30 | 開場・受付開始、エキシビション(展示) |
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9:30-9:40 | 岡良隆(東京大学)挨拶 |
9:40-10:20 | 神崎亮平(東京大学) 「ロボットとコンピュータで昆虫の能力をさぐろう」 |
10:30-11:10 | 川崎雅司 (バージニア大学) 「電気魚が混線しないのはなぜだろうか?」 |
11:20-12:00 | アラン・ロバーツ(ブリストル大学) 「オタマジャクシを用いて神経系を理解しよう」 |
12:00-13:00 | エキシビション(展示) |
神崎亮平(東京大学)
「ロボットとコンピュータで昆虫の能力をさぐろう」
人類よりも遙か昔に地球に出現し全動物種の7 割以上を占める昆虫は、変化する自然環境を生き抜くため、環境を検知する優れたセンサや超小型の情報処理装置である脳、そして身体を進化させてきました。羽ばたきながら飛行したり、垂直の壁をのぼったり、数キロも離れた匂い源を探し出すなど、昆虫はわたしたちの想像をはるかに超えた能力を発揮します。
このような昆虫の能力を生み出す、比較的単純で、高速処理のできる経済的な設計は、ものづくりにおいて重要な手本となります。数十分子の匂いを検知する昆虫の嗅覚機能を再現した匂いセンサをつくったり、警察犬のように特定の匂いを探す昆虫(“警察昆虫”)を遺伝子工学によりつくることが可能になってきました。また、昆虫がもつしくみを使って、匂い源探索ロボットや衝突回避ロボットの開発も行われています。さらには日本で最速の「京スーパーコンピュータ」を用いて昆虫の脳を再現することで、脳のしくみを理解しようという研究も進められています。
このような昆虫の科学としてのおもしろさや、次代の技術としての応用など、これまで想像したこともない昆虫の魅力に迫ります。

川崎雅司 (バージニア大学)
「電気魚が混線しないのはなぜだろうか?」
南米アマゾン川やアフリカの川に、電気でお互いにコミュニケーションをする魚「電気魚」が住んでいます。目はあまり見えないのですが、電気をレーダーのように使って餌や外敵を見つけることができます。オスがメスを探す時にも電気を使います。
でも、電気魚は自分で出した電気と、ほかの魚が出した電気をどうやって区別しているのでしょう。水の中で混乱することはないのでしょうか。電気魚の脳の中でいったいどんな計算が行われているのでしょう。自分で発生した電気もほかの魚が出した電気もよく似た同じような電気信号です。それをどう区別してモニターしているのか、その仕組みを解き明かすのに電気魚は最適なモデルのひとつです。
電気魚に限らず、動物の脳の中には「感覚」を司る部分と、「運動」を司る部分があります。誰かがあなたの足の裏をくすぐったらとてもくすぐったいのに、自分で足の裏を触ってもあまりくすぐったく感じないのはなぜでしょう。今日はその複雑なメカニズムをやさしくご紹介します。

アラン・ロバーツ(ブリストル大学 英国)
Alan Roberts(University of Bristol, UK)
「オタマジャクシを用いて神経系を理解しよう」
人間の脳は10 億個もの神経細胞からなる複雑なものですから、理解するのはとても困難です。そこで、より単純な構造の脳をもつ、単純な動物をつかって調べようと考えました。 私たちは、卵から孵ったばかりのカエルのオタマジャクシを研究しています。オタマジャクシは魚と同様、一番ありふれた脊椎動物ですが、生き抜くための行動と、それを作り出す脳を備えています。例えば触ったら泳ぎだして、安全な場所へ逃げます。この仕組みを研究することが、脊椎動物の神経系の発達と機能を理解する最初のステップになるのです。
私たちは、オタマジャクシが泳ぐ時に働く何種類かの神経細胞に注目しました。コンピュータの上で成長する神経細胞をバーチャルに構築して、脳がどのように発達するのか探って来ました。その結果、たった7種類の神経細胞があればオタマジャクシの神経系をモデル化できること、2,000 個の神経細胞を100,000 個のシナプスで接続すれば、オタマジャクシの逃避行動を再現できることが分かりました。
脳のネットワークがどのように働いて動物の行動を作り出しているのか、モデルは完璧に説明してくれるのです。

(講演は英語ですが、日本語のスライドを用い、日本人研究者が説明を加えます。)