矢後 勝也(ヤゴ マサヤ)
Masaya YAGO
研究室TEL: 03-5841-4045
研究概要
(1)チョウ類の系統分類学的研究
チョウ類は、観察や収集が容易なことから種レベルでの記載分類の研究が最も進んでいる昆虫群の一つである。しかしながら、蝶類の高次分類は系統体系学的方法に基づいていないために異論が多く、分類体系は安定していない。また上位分類群の系統関係についても形態データのみから導き出した複数の仮説が存在し、いずれも信頼性が高いものとは言いがたい。そこで、主に成虫の翅の翅型・斑紋や雌雄交尾器、幼虫の刺毛配列などの外部形態に基づいた比較形態学的研究とミトコンドリアDNAの塩基配列による分子系統学的研究を併用した系統分類学的研究を進めている。
中でも約5,000種が知られているチョウ類最大の一群・シジミチョウ科が専門。その種数の多さゆえに、このグループでは少ないながらもまだ新種が発見されるため、種や亜種の記載レベルの研究も行なっている。構造主義生物学などで著名な柴谷篤弘博士も奇妙な分布を示すことで以前から注目していたベニシジミ族では、系統分類だけでなく系統生物地理学的な研究も試みている。
チョウ類は、記載分類の研究が進んでいることから他にも様々な研究面からアプローチが可能な研究材料でもある。例えば、チョウはその種類で生息環境が分かること、幼虫が植食性なために植生との結び付きが強いこと、目につきやすく身近な昆虫であること、などの点で環境評価のための指標生物としても非常に優れている。また熱帯地域では生物多様性の解明とその保全が急務の課題となっており、その最も基本的な取組みとして要請されているものとして、種のインベントリー(目録)作成があるが、チョウ類は多様かつ同定が容易なために、完成度の高いインベントリーができることからも注目視されている。

左:Heliophorus smaragdinus Yago & Monastyrskii, 2002
右:Heliophorus forficatus Yago & Nakanishi, 2003
(2)チョウ類の系統進化に関する研究
チョウ類は鱗翅目(ガの仲間)のうち昼行性へ適応したグループの中で最も多様化した分類群である。また昼行性への適応により、
複眼(視覚)の発達さらには擬態、警告色、性の識別による翅の色彩や翅型の多様化など、チョウ類は著しく形態を進化させてきた。それゆえ、形態と機能とを併せて系統進化学的に考察する上で非常に興味深い一群でもある。そこで、チョウ類の系統関係を比較形態学的手法と分子系統解析により導き出し、これらの形態進化系列を解明する研究を進めている。
また、特にシジミチョウ科チョウ類では、主に幼生期においてアリと相利共生から片利共生、捕食(アリ幼虫)など特異な関係を持つことが知られている.一部はアリと共生する半翅目(アブラムシ・ツノゼミ)を捕食したり、その分泌物をなめるものもいる.この好蟻性チョウ類のシジミチョウに見られる多様な生態的特性の起源と発達過程を系統進化学的に解明する研究も行なっている。

左:クロヤマアリに付き添われるオオルリシジミの終齢幼虫
右:ササコナフキツノアブラムシを食べるゴイシシジミの終齢幼虫
(3) シジミチョウ科チョウ類の生態学的・行動学的研究
多くのシジミチョウ科チョウ類の幼虫は、蜜腺や伸縮突起、PC(pore cupola organs)などの好蟻性器官でアリを呼び寄せることにより、天敵から身を守ると考えられている。そこで、どのような外敵に共生アリの有効性があるのかについて詳しく調べている。これはシジミチョウ幼虫の外敵防御と好蟻性の進化を考える上で非常に重要である。
また、ウラギンシジミの幼虫に見られる独特かつ巨大な伸縮突起の機能についての研究では、幼虫がこの器官でクモなどの外敵の攻撃を錯乱させて致命傷を避けることを明らかにしている。この発見は、隠蔽色とアリによる擁護のみと考えられてきたシジミ幼虫の天敵防御の進化史の研究に、新たな興味深い観点を提示するものとして注目される。

左:アリを伴うヒメウラボシシジミの終齢幼虫
右:「誘き寄せ効果」でササグモの攻撃を回避するウラギンシジミの幼虫
(4)チョウ類における地球温暖化と北進現象に関する研究
近年、南西諸島から本土への分布拡大の傾向を示すマダラチョウ科のカバマダラを題材に、地球温暖化にともなう分布の北進現象に関する研究を行なっている。このチョウにおける分布拡大の要因は、温暖化だけでなく各地での食草(トウワタ・フウセントウワタ)の植栽も拍車をかけていることが、我々の調査などにより解明されている。

福岡で発見されたカバマダラ
(5)絶滅に瀕するチョウ類の保全学的研究
a)ミヤマシジミ(絶滅危惧II類)
b)キマダラルリツバメ(準絶滅危惧)
c)オオルリシジミ(絶滅危惧I類)
略歴
平成5年3月 明治大学農学部農学科卒業
平成5年4月 衆議院議員鳩山邦夫秘書
(平成6年一労働大臣秘書)
平成10年4月 九州大学大学院比較社会文化研究科修士課程入学
平成12年3月 九州大学大学院比較社会文化研究科修士課程修了(理学修士)
平成12年4月 九州大学大学院比較社会文化学府博士後期課程進学
平成13年4月 日本学術振興会特別研究員
平成15年3月 九州大学大学院比較社会文化学府博士後期課程修了(理学博士)
平成15年3月 日本学術振興会特別研究員任期終了
平成15年4月 東京大学 大学院理学系研究科 技術系職員(技術補佐員)
現在に至る
研究歴
平成3年4月1日 明治大学大学農学部農学科
〜 「ミヤマシジミ斑紋の遺伝形式と本種の生態」について研究
平成5年3月31日
平成5年4月1日 鳩山邦夫事務所
〜 「主に日本産チョウ類の生態」について研究
平成10年3月15日
平成10年4月1日 九州大学大学院比較社会文化研究科(修士院生)
〜 「ベニシジミ亜科の系統体系学」について研究
平成12年3月31日
平成12年4月1日 九州大学大学院比較社会文化学府(博士院生:日本学術振興会特別研究員)
〜 「シジミチョウ科の形態学および系統進化学」について研究
平成15年3月31日
平成15年4月1日 東京大学 大学院理学系研究科(技術系職員)
〜 「蝶類および陸産貝類の分子系統学と系統進化」について研究
現在
その他資格等
昭和62年8月11日 原付運転免許取得
平成元年9月4日 普通乗用車運転免許取得
平成5年3月26日 高等学校一種教職免許(生物)取得
平成6年3月26日 学芸員有資格者証取得